彼の救い
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あの人に対しての嫉妬は……いい。悔しいけど、ここまで見事なモノを見せつけられたら、見せつけられたからこそ受け入れられる。
雛里ちゃんに対してはダメだ。親友にそんな気持ち持っちゃいけない。自分の浅ましい感情なんか抑え付けないと。
「朱里ちゃん」
「はわわ! ど、どどどうしました桃香様!」
急に声を掛けられ思考が中断し、いつもの口癖が出てしまった。それを見た桃香様が少し呆気にとられてからクスクスと笑う。
「ふふ、朱里ちゃんのおかげで戦が終わったんだなーって実感したよ。本陣の皆にお願いをしてきて欲しいの。動ける人は手助けに来てくれないかって」
桃香様もやはり優しい。命令すればいいのにお願い。兵達の事も気付かってのこと。
「わかりました。皆に伝えてきます」
返事をすると桃香様はまた民達の和の中に溶け込んでいった。
この優しい人のために才を振るえる私は幸せ者だ。
そう考えて先ほどの思考の続きを行いながらも幾人かの兵と共に本陣へ向かった。
†
雛里と朱里なら気付くだろうな。俺の狙いに。
民の人心掌握の先手を取る事が一番の目的だった。
責任を果たすとはよく言ったものだ。俺はそれを利用しただけ。
偶然の産物であるこの状況をうまく使えただけだ。偽善も貫き通せば被害者にとっては救いになる。
乱れた世に疲れ切った人々は自分達を救ってくれる英雄を望む。天の御使いなどと胡散臭いモノの噂が流れていたのは数多の英雄でさえ期待できないと思い始めたからだ。
そんな中、桃香の綺麗事は役に立つ。そんな事を声高に掲げるモノなどいやしないのだから。
異常ともとれる思想は一際特別に見えて、桃香が漢の由緒ある血筋ということも相まって、そして現場での行動で全てがいい方向に行く。
自分自身が耐え切れなかったと言う事も確かにあるが長く雛里や朱里と関わってきたおかげで感情とは別に冷えた頭で思考が回るようになった。
桃香を成長させ、自分達の語った言葉の責を果たし、民の心を救い、あわよくば実を得る。それが今回の狙いの全て。
実は……幸運な事に得られた。
俺の天幕に連れて行かせた二人の証人。二人には董卓の真実を語ってもらう。もちろん桃香の前で。
真実を知った桃香はどうするか。俺の行動で自身の言葉の責を確認した彼女はどうするか。周りはどう考えるか。
袋小路に追い詰めて叩き潰す。完全には潰れないように予防線は張ったから大丈夫だろう。これで迷うようなら俺が……
気付くと劉備軍本陣の前で、よく見ると雛里が陣の入り口に立っていた。
俺を見つけるや駆けてきて……ただいまと言う前に胸に飛び込んできた。受け止めると涙をボロボロと零しながら口を開いた。
「秋斗さんの、ばか。心配、したんですから。あんな、死に場所を、求めるような
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