彼の救い
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出しと家を失った人たちへの仮設天幕の用意がある事を伝えましょう」
強く頷き民の避難集合場所に向かう。
しばらくするとそこに着いた。
「劉備様!」
徐晃隊副長さんが大きな声を上げると同時に民達の視線が一斉に集まる。
その眼には期待と感謝の色が映っていた。
「おお! 劉元徳様! あなたの軍のおかげで我らが洛陽の民の安全は確保されました!」
「無理を押して戦場を抜けて一番に助けに来て下さるとは……ありがたや、ありがたや」
「我らの事を一番に考えてくださったのはあなた方なのでしょう?」
「なんでも徐晃様は傷だらけにも関わらず我らの救助の為に来て下さったとか、そのような方の仕えるお人だ。まさしく仁君ではないか!」
口々に話す声には歓喜があった。私はその人たちに応えるために大きな声を張り上げた。
「皆さーん! 炊き出しの準備をしていますからもうちょっと待って下さいねー! それと仮設天幕を建ててるから家を建て直すまではそこで雨を凌いでくださーい!」
わっとあがる歓声を聞きながら一人思考に潜る。
徐晃隊が噂を流したのか。あまりに民の人心が安定している。
これも、ここまで細やかな事まであの人は考えていたのか?狙っていなければ噂の指示など出せない。いや、徐晃隊という特殊な部隊だからこそこうなった。そしてあの人もそれを分かっているはず。
わざわざ自分が行く事で民達に救いを見せつけた。
怪我をした自分が一番に入る事によってその効果は何倍にも膨れ上がる。
それに民をいくつかの場所に纏めた事によりそれぞれの軍で民の救援がしやすくなる。しかし他の軍にしたら厄介な事にそこにも噂が根付いている。
一番に助けに来たのは劉備軍である、と。
民は美談を好み、そこに希望を見いだせる。
まさしく身を切って民の心を救ったんだ。私達が有利になるように。
桃香様の天性とも呼べる人を惹きつける才によってこれからよりいっそう民達は感銘を受けるだろう。
ほら、もう民達と打ち解けている。
この現状を作り出したのはあの人だ。軍師の私じゃなくて。
ズキと胸に痛みが走る。
あの人は……この軍には絶対に必要な人だ。
そして私にも……。
私も……あの人に惹かれてしまった。
私とは異なる思考のあの人が欲しい、全てを知りたい、教えて欲しい、導いて欲しい、あの時みたいに黒い私も見抜いて受け止めて欲しい。
ふいに親友の顔が浮かんで暴走する思考が中断される。
ダメだ。雛里ちゃんを裏切る事なんて出来ない。
そう考えても初めての感情が抑えきれない。
再度ズキリと胸が痛む。
これは、この痛みは……嫉妬だ。私は嫉妬している。
秋斗さんの私とは異なる異常な思考に、雛里ちゃんが私よりも先にそれに触れていた事に。
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