彼の救い
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く勝者の言う事聞いて力溜めよか。惇ちゃん、案内して――――」
言いながら振り返ると同時に夏候惇の身体が崩れ地面に前のめりに倒れる。
「姉者!」
駆け寄った夏侯淵にどうにか抱き止められたがその息は荒い。
「ああもう、あないな事の後に無茶するからや。まずは手当やな。夏侯淵、うちも肩貸すさかい救護の陣まで連れてくで」
「すまない張遼」
その表情は武人ではなく一人の泣きそうな少女のモノだった。
心配で心が折れそうになりながらも姉の勝利を疑わず将として動いていたのか。
これは確かに自分の完全敗北だ。でもいつか勝とう。自分が一番だと言わせてみせよう。
そう考えながら新たに自分の所属することになった軍へと向かった。
†
城門付近は連合が完全に抑え、後は外の戦場と中の敗残兵を制圧し、洛陽の民の安全を確保するのみだった。
呂布が去った後、張コウと共に周りの敵兵を制圧、急いで白蓮殿の所に向かった私は無事に合流できたが、主の顔は戦の勝利に浸るでもなく翳っていた。
「戦の勝利が確定し、周りに敵もいない。なのに何故そのような浮かない顔をしておられるのです、白蓮殿?」
ハッと顔を上げこちらと目を合わせてくれたが、その瞳には疑問と……静かな怒りがあった。
「……秋斗がな、洛陽内部に煙が立って少ししたら隊を連れて一番に洛陽に突入していったんだ。私の目の前を通って」
己が主から話された事は信じられないモノだった。飛将軍との戦闘に集中していてその間の戦場の出来事は全て把握できてはいなかったから。
「バカを言いなさるな! 倒れまでした将に対して劉備殿がそれを命じたと!? それとも秋斗殿の独断専行だとでも!?」
あまりの驚きに白蓮殿にきつく詰め寄ってしまった。私の剣幕に少し怯えながらも睨み返し、口を開いた。
「私が知るか! あいつが独断専行しようとしたのは最初の、初めての賊討伐の時だけだったんだろう!?」
言われて思い出す。確かに最初こそ逸る気持ちを抑えきれずそのような事を行おうとしたが以降は全く無かった。冷静に状況を判断できる立派な将になったはずだ。では劉備殿が命じたという事か。
「……怒鳴ってしまってすまない。秋斗は私に見向きもしなかったんだ。いや、その程度の事はいいんだ。だけど、だけどさ! あんな痛々しい表情をしたあいつを見たのは初めてなんだ! あいつに……何があったんだ……」
消え入る声は悲しみに包まれていた。
私達はシ水関の時以降、忙しくて合う機会が無かった。
あの時は普通だった。いや、普通に見えただけなのか。あの時は雛里が隣に居たし、それに戦場では無かった。
確かに戦場での秋斗殿は恐ろしいと感じることがある。しかし痛々しいと感じた事は無い。哀しげな瞳で命を奪う事を心に刻みつける様はそう取れなく
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