彼の救い
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んなにも清々しい。
口がにやけるが、すっと胸の奥に吹き抜ける寂しさから瞳が潤む。
「うちの負けや。これで人生に悔いは無い。……惇ちゃん、戦場で殺してくれ」
仕える主も、誇りを持っていた武も、自分の鍛え上げた部隊も、全て負けてしまった。
ここで最後に自分が死ぬことに意味がある。
月の誇りを、想いを、あの子が好きだと言ってくれた自分自身のままで華雄と共に守り抜ける。
言うとしたら、こんな気分の時に酒が飲めないのが心残りか。
そんな事を考えているとふいに頬に中途半端な衝撃が走った。夏候惇の拳が軽く自分を打っていた。
「バカかお前は。お前はこれから華琳様の元で戦うんだ。敗者は勝者の言う事を黙って聞け。それに見ろ」
何を言ってるんだこいつはという顔をしながら腕を引き自分を立たせ、前を見ると夏侯淵の後ろに自分の隊の生き残り達がそこには居た。
「後で逃がしてやると言ってもお前と共に死ぬと言って聞かないらしい。こんないい兵達に敗者の張遼を見せたままで逝って、お前はそれで悔いは無いと言い切れるのか?」
自分を見る複数の目はずっと信頼を向けてくれてきた力強いモノ。戦場でいつも支えてくれた大切な仲間達。
その目はいつものように自分に期待していた。
『張遼、お前の戦いはまだ終わっていないだろう?』
女にしては豪快な笑い声の幻聴とともに聞こえた言葉は、もういない友の声。
月は、詠は、恋は、ねねは、こいつらは……自分に生きて欲しいと願っていた。
華雄の事をバカにできない。自分のほうがバカだった。
うちは華雄とちゃう。うちが華雄のマネした所で、それはうちとして死んだ事にならへんやないか。
そう考えると心が軽くなった気がした。
「惇ちゃん、一つ聞かせえ。曹操は民を犠牲にするような戦の仕方をする奴か?」
自分の心のしこりを聞く。夏候惇のような単純純粋バカが仕える主ならば答えは分かっているが、それでも聞いておきたかった。
「ふざけるな! 華琳様がそのような下卑た策を使う訳がないだろう!?」
返ってきた返答は心底の激怒だった。
「そうか……ええよ、惇ちゃん。あんたの好きにしい。こいつらのためにも、うちの仲間との約束のためにも、まだ死ねへんしな。すまんなお前ら、もうちょいとだけうちの無茶に付き合うてくれ」
厳しい瞳で自分を見続ける夏候惇に返事をし、自分の隊に片目を閉じ、片手を顔の前に上げて謝る。
「我らが命は常に将軍と共に! 戦場にて神速のまま果てる事こそ我らが望み! どこまでもあなたと共に駆けましょう!」
片膝をついて口にされたのは兵達全ての心の内。
こんなバカ達と戦場でずっと駆けていけるなら、それこそ神速の張遼その在り方だ。
「クク、あははは! バカだらけや! 最高やなぁ! ほんなら今は大人し
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