火燃ゆる都に月は沈む
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さった矢を引き抜いた。
「夏候惇!?」
「天よ、地よ、そして全ての兵達よ! よく聴けぇい!」
ググッと大地を踏みしめ立ち上がり左手で剣を天に突き刺し、傷から血が飛び散るのも気にせず大声で叫ぶ。
「我が精は父から! 我が血は母から頂いたもの! そして今はこの五体と魂は全て華琳様の為のモノ! 断りなく捨てる事も、失うわけにもいかぬ! 我が左の眼、永久に我と共にあり!」
叫びきると同時に彼女は矢から眼球を口に運び、咀嚼し、嚥下した。
その光景に鳥肌が立つがそれは武者震いにも似ていた。
自分はこんな……こんな素晴らしい武人と戦えるのか。
「姉者……せめてこれを」
差し出されたモノは蝶の形をした眼帯で、それを妹から受け取り着けた夏候惇はさして異常の無い動作で一振り剣を振るう。
「うむ。……待たせて悪かったな張遼よ。どうした? 震えているぞ?」
何も問題は無いとばかりにこちらに言い放ち、にやりと口の端を吊り上げて不敵に笑う。
その笑みが華雄とあまりに似ていたからか自分の頭の中で幻聴が聴こえた。
『クク、お前は自分を抑え過ぎだ。胸を張って自分の為に戦って私に会いに来い。その時は互いに一発ぶん殴ってから、酒を酌み交わそうではないか』
ああ、そうやな華雄。うちらしくなかったよなぁ。月の好きな、あんたら皆が好きって言ってくれたうちやないと意味ないよなぁ。
「ええなあ……あんた最っ高や! もう全てどうでもええ! うちは今、あんたと戦うためにここにおる! あんたみたいな修羅を倒す為に戦うんや! さあ、始めよか! ぜーんぶ賭けて!」
「おう、張遼! 行くぞ!」
そして、自分にとっての生涯最高の戦いが幕を開けた。
†
誰にも見つからないように街中を歩く。
住民は避難に忙しいのかどこも人の気配が全くと言っていいほどなかった。
それでも最大限警戒をしながら慎重に進む。火の上がっていない方の隠れ家へ。
洛陽の街にいるのは危険だが。戦場に出てしまう方が危険だ。
ごたごたで抜け出すには用意した民の服が良かったが、月は抜け目のない事に全て隠してしまっていた。
火が回る時間を考えると探していると間に合わないと判断して仕方なく置いてあった自分の予備に着替えさせて外に出た。
隠れてやり過ごすのはまず出来ない。落ち着いた頃に抜け出すか、それともどこかに保護を申し出るか。
保護をしてもらえそうなのは……偽善の塊の劉備軍か温厚そうな公孫賛軍だけだ。
他は信用できない。袁家はまず無理、孫策や曹操には疑われるのが目に見えているし、馬超軍には顔を見られている可能性がある。
しかし劉備軍は避けたい。華雄の件もあるし何より掲げるモノが受け付けない。
こちらの現状も知らず嘘の情報に踊らされ綺麗事で流されるよ
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