火燃ゆる都に月は沈む
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ら。
「ごめんね詠ちゃん。私は友達の想いを、大切な人たちの想いを裏切る。私が……私として最後に出来る事だから。責任を果たさないと私は生きていけない、生きていちゃいけないの」
王の理を話す顔に迷いは無く自暴自棄なわけではないのが見えた。
「ダメよ! 絶対に死なせない! 月が死ぬ事なんてない! 死んだと見せかければいいじゃない!」
そうだ。実際に死ぬ事はなくても悪意が董卓という名に集まればいいだけだ。どうして分かってくれないの?
「ううん。それじゃだめ。人は見えもしないモノには半端な憎しみしか抱けない。私が表に出る事でそれは確かなモノになるから。だから詠ちゃんだけでも逃げて。私の分まで後の世で人を助け続けて」
必死に懇願する顔は今にも泣き出しそうなほど。
言い出したら梃子でも動かない頑固なところは昔からあった。
もうこの子は覚悟を決めた。だから自分が何を言おうと聞きはしないだろう。
勝手だ。自分は死のうとしているのにボクには助かれと言うなんて。
本心の優しさから紡がれた言葉が胸に響き涙が零れる。頭を月がゆっくりと撫でつけてくれる。
「お別れを言いたかったから待ってたんだ。ごめんね、最後まで自分勝手で。それとありがとう。ずっと守ってくれて」
柔らかく微笑む顔は夜空に浮かぶ月のように綺麗に、優しく輝いていた。
その笑顔を見て自分も覚悟を決めた。
すっと懐から太い針を取り出し、目を見開いて反応できない彼女の腕に刺した。
「っ! 詠ちゃん……何を……」
少し経つと彼女からふっと力が抜けその体は床に向けて傾き、慌てて自分の両腕で抱き止めた。
「ごめんね。月。この先ずっとボクを憎んでくれていい。それでも――――」
言葉の先は紡がずに拳を握り思考を巡らせる。
ボクはこれで裏切り者になった。
†
その武は幾度の戦を越えて研ぎ澄まされたモノ。
両者共に引かず、その長い戦闘は終わる事がないのではないかと思われた。
神速の偃月刀と曹操軍の大剣は悉く弾き、弾かれる。
「張遼! 私相手にここまでやるとはさすがだな!」
息を弾ませながら放たれる夏候惇の言葉に苦笑しながらも次の剣戟でもって応える。
再度弾きあった所で自分は大きく距離を取り、戦場をちらと確認した。
左前方には真紅の呂旗が袁術軍を蹂躙し、そろそろ戦場を離脱しようとしているのが見えた。
自分の隊達は……荀ケ操る曹操軍と袁紹軍の連携によって完全に抑えられていた。
そして自分は――――
もはや戦の勝敗は決した。そして自分自身が抜けられる事はもはやない。月と詠がうまく逃げ切れるかだけが心配だが信じるしかなかった。
ならばどうするか。
自分はどうしたいか。
強者を求め、戦場で命を投げ出す事も厭わない。それも天命よと
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