火燃ゆる都に月は沈む
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返された言葉は否。
自身の命を賭ける事で桃香様が乱世を抜けて行く為に心の予防線を張る。誰か将を失う、犠牲にする、見捨てる覚悟を持たせる、と。
王の理を無理やり叩き込む。そんな方法だった。
自身の言葉に責任を持たせ、尚且つそれに同意した彼自身の責任も果たすということ。
ここまでしなければならない。そうしなければ乱世に綺麗事を語る道化のままで叩き潰されるだけだから、と。
そして多分、言ってくれなかったがもう一つ理由がある。
それは真逆の事柄。自分達が耐えて他を見捨てる覚悟を持たせる事。
王は自国の民を犠牲にしてまで他国を助けてはいけない。仁に溢れる桃香様にそれを行わせる、もしくは行わせた後に心が潰れないように予備の心構えを与えようとしている。
「あなたはどうしてそこまで桃香様に拘るんですか」
そう聞きたかったが聞けなかった。聞いてしまうと彼が壊れてしまう気がして。
代わりに必ず生きて帰って来てと私は願った。彼は一言、謝罪ではなくありがとうと感謝の言葉を返した。
朱里ちゃんに話した後、桃香様から了承の意を聞いて長く戦場を見やる私達の視界に煙が映った。
どうか起こらないでと願った事態は無情にもやって来る。
私は一番手薄で抜けやすい、敵将が抜けると予想された箇所を指し示した。
「じゃあ行ってくる」
笑顔で告げる彼にあるのは私への心遣いともう一つ。
あの人は――――戦場に安らぎを感じてしまっていた。
†
朱里からの伝令によって民達の危険を知った。
兵に指示を出しながらも思考を巡らせ秋斗殿の事を考える。
彼は無茶ばかりしたがる。まるで自分の命を投げ打つかのように戦場に使い捨てようとする。
将ならばそれはあり得る状態だ。黄巾の時に夏候惇殿から曹操軍で起こった出来事を教えて頂いたから。
しかし今回のような場合は違う。
自分が一番適しているから
他に誰も手が空いていないから
自分達の参加理由のためだから
私は間近で聞いていたとしても止めなかっただろう。桃香様の全てを守るために必要な事だから。将としては当然で、人としては最低だが。
彼の事は信頼しているし、どうしようもない人だが、認めている。背中を預ける事に迷いは無く、共に理想のために戦ってくれる同志だと思っている。
しかし……秋斗殿は私達と違う。根本的に、決定的に、はっきりとそう断定できる。
自分の頭では今それが何かは分からない。
この戦が終わったら……少し話してみよう。
†
雛里の指示通り戦場を駆けると、張遼が袁紹軍に向かった所にぽっかりと穴が出来ていた。
その場には白蓮が居たが今はそちらを見もせずに全速力で横切る。
傷が疼くがそのようなモノは無視し、まばらに並ぶ敵兵を斬
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