第三章:蒼天は黄巾を平らげること その5
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ほど俺達は親しく無い筈だが・・・なんだ、北郷殿」
「・・・あなたは、俺と同郷の方ですか?その、俺と同じ故郷で生まれて、俺と同じようにこっちに来たのでしょうか?」
びくりと肩が震えて、而して内心の動揺を見せぬよう冷たい鉄面皮を浮かべながら振り返る。もしかしたら自分達がここに来る前にこれに関する話をしていたのか、荒唐無稽な話の割に義勇軍の面々はひどく落ち着いていた。この中で一番幼いであろう張飛ですら、まるで初めての御伽噺に傾聴するような無邪気な顔だ。
仁ノ助は北郷をじっと見る。まるで探偵小説を登場人物になったつもりで解き明かす、一縷の確信と大いなる疑いを同居させた、意味深な表情をしていた。それが様になっているように見えるのは、彼が同年代の者よりも幾分か精悍さを秘めているからであろう。自分が通っていた高校・大学では、そんな人間は真っ先に世捨て人のように怠惰の道に陥るか、もしくは群衆に紛れ込んで己の道を独走するかであった。
懐かしさを感じる黒髪黒目の容貌に、「その問いに答える事はできない」と、仁ノ助は冷たく言って天幕から去って行った。
ーーーそのころ、荊州南陽郡宛城にてーーー
川辺の小魚のような薄い鱗雲が空を漂い、それを掻き消さんとばかりに鼓がガンガンと鳴らされて、男達の怒声と悲鳴が大地に響く。その声は城の東北の部分から響き、剣戟の響きが暴風雨を思わせるようにその場を支配した。
その反対側、城の南西部において、孫堅は自分の目論み通りに作戦がうまくいき、賊軍の主力が官軍本隊に引き付けられているのを察した。朱儁自身が鎧を着て戦っているのだ。陽動がうまくいかぬ筈がなかった。
「よし、皆の者!城壁を制圧しろ!」
腹の底から力を籠めて、端までいる兵まで伝わるように声を上げる。その命令を聞いた兵士達が一斉に城壁へと殺到する。どうやら城壁には、官軍本隊に陽動されていてもそれなりの数の敵兵が居るようで、登攀を邪魔するために弓を射掛けたり、石を落としたりして妨害してくる。だが孫堅の兵達に、振りかかる矢の雨を物怖じする様子はまったく見られなかった。
いち早く着いた者から順番に、縄に鉤爪がついた道具を取り出してぶんぶんと振り回すと、これを城壁に向かって投げつけて、頂上のブロックの隙間に爪を食い込ませ、縄を伝ってよじ登っていく。または大きな梯子を担ぎ込んで城壁にかけると、勇気のある者から順番に登っていく。その慄然とするような殺意に気圧されたか、賊らは抵抗の意思をさらに露わとする。岩の直撃を受けて、鉤爪を手放した者が城壁途中から落ちていき、下にいた仲間を押し潰した。
「腐っても兵という事か。やはり私が最初に切り込まねばならんな!」
孫堅が痺れを切らしたように城壁に走っていく。距離が五尺ともいうとこ
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