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乱世の確率事象改変
黒麒麟動く
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さんを救援に向かわせますわ!」
「それはダメ。怒った敵がこっちに来る可能性が高いから」
 戦場を見やれば張遼の旗が大きく動いていた。
「ではどうすればいいんですの!?」
「文醜に伝令。張遼隊に一当てしてすぐ下がるか開くように。私達は下がる。夏候惇が近くにいるから心配しないでいい」
 焦ってこちらに聞き返す麗羽にすべきことを伝えると彼女は静かに頷いた。
 右には夏候の旗が近づいてくるのが見える。そしてあの子も。
 桂花との久しぶりの共同作業とは……私にとっては嬉しい事だ。
 未だに震えている麗羽の背中を少しさすり低く優しく言葉をかける。
「大丈夫。私が全部守ってあげる」
 さて、桂花は今まで一度も私に戦術で勝てなかったけど今回はどうだろうか。
 あの子の才能は政治向きだから仕方ないか。
 戦場で違う軍に所属しながらも頑張っている彼女を想い、私は全てを操るために行動を開始した。


 †


 胸の内にある感情は怒り。そして責任感。
 あの人は力の無い私の代わりに行ってしまった。
 朱里ちゃんからの話で彼の行動の意味を知った。
 命を賭けているのは兵も将も同じ。それをどうして止められようか。
 決断したのは私で、命令を出したのも私なんだ。
 自分の言葉一つに責任が伴う事はもう分かっている。
 でも無理しないでと止めたのは誰だったか。
 大きな胸の痛みを感じて、それでも歯を食いしばり耐える。
 王とは決断を下す者。
 それが例え近しい命を危険に晒す事柄だとしても必要とあらばしなければいけない。
 自分が何を目指しているか。
 自分が何をしたかったのか。
 そのために必要な犠牲を分かっているか。
 その責任を背負うならば自分を使え。
 彼が言いたいのはそういう事。
 朱里ちゃんからの説明の最中にも私は何も言わなかった。言えなかった。
 私が選んだ事は自分の周りを犠牲にして他者を助ける事。
 大きく言うならば、自分の国の民を犠牲にして他の国の民を助ける事。
 兵と民は違う、と誰もが言うだろう。
 死の覚悟を持ち、戦う事を選んだ者が兵。生きる事を願い、平穏を望む者が民だ。
 そこにある命に違いは無いはずなのに誰もが違うと言う。
 既に決断を下した私に出来る事は無事を祈り、民が少しでも救われるよう願い、そしてこの戦が速く終わるように命を下す事だけ。
「朱里ちゃん、他に私が出来る事ってあるかな?」
 自分の信頼する軍師に尋ねる。何か他にもないか、何か一つだけでも私が出来る事は無いのだろうか。
「桃香様……。この戦が終わり次第、洛陽内部の民の救援活動を優先します。今は耐えましょう」

 私はやはり待つ事しか出来なかった。


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