第十章 イーヴァルディの勇者
第五話 動き出した歯車
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分の救出のため、魔法学院に助けを呼びに向かうだろう。
そこに考えが至り、唇を噛み締める。
真っ先に浮かんだ顔は、士郎の顔であった。
巻き込まないために黙って出て行ったというのに、これでは何の意味もない。
普通に考えればガリアという大国に捉えられた自分を助けようとする者は考えられない。大国に喧嘩を売るようなものなのだから当たり前だ。こんな自分を友だと言うキュルケでも、そんな危険を犯すとは考えにくい。
だが……エミヤシロウならばと考えてしまう。
今ではトリステインの近衛騎士であるが、あの人ならばそんなことも関係なく助けに来るかもしれない。
タバサの脳裏に、自爆と言ってもいい自らの命を賭けた罠を、自分の身体を盾にしながらわたしの命を守ったシロウの姿が蘇る。
敵であるわたしの命を……。
ドクンと心臓の鼓動が一度強く鳴る。
無意識に胸に置かれた手に力込もり、微かな胸の膨らみを握り締める。
何を考えているの。
もしかして、わたしは期待しているの?
彼が助けに来るのを……。
……そんな筈はない。
そんなに自分は弱い筈がないのだから。
それに助けに来たとしても無駄なことだ。あと十日でここを突き止められるとは思えない。わたしはここで母と同じく、エルフの薬で心を無くすことになる。エルフの薬は特別だ。何とか母の心を取り戻そうと様々な方法を試したからわかる。わたしが心を取り戻すことはないだろうと。エルフの手によって造られた聞いて納得した。あれは確かにわたし達の手におえるものではない。
心の消失を前にしても、タバサの心には何故か乱れはなかった。
それは絶望のためだろう。
決して逃げられないという。
部屋から出て行ったエルフが開いた扉を見る。
あのビダーシャルと名乗ったエルフにはどうしたとしても勝てはしない。杖があっても自分は手も足も出なかった。杖がない今、何が出来ようか……何も出来はしない。虫のように踏み潰されるだけ。
それがわたしにはわかる。
わかってしまう……わからなければ生き残れなかったから。
これまでタバサが北花壇騎士として様々な亜人、魔獣、メイジと戦い、生き残ってこれたのは、魔力の強さや魔法の巧みさによるものではない。相手の戦力を正確に分析することが出来たからだ。
基本的に亜人や魔獣は人間よりも優れた力を持つ。その戦力を正確に分析し、自分の力と比べて何が強く何が弱いかを知ることで、作戦を考え罠を張り生き残ってきた。
相手の戦力を正確に図る分析能力こそが、タバサの最大の力だと言ってもいい。
その力が告げていた。
勝てない……と。
抗うことの愚を伝えていた。
胸に当てた手の隙間から、冷えた風が通り過ぎたかのように、押さえた胸の奥
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