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剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第五話 動き出した歯車
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あったとしても、あのエルフに抗えるとも思えない。
 エルフから目を離さず、ゆっくりとベッドから降りたタバサは、ベッドの前に立つ。

「あなたは何者?」
「ネフテ―――……『サハラ(砂漠)』のビダーシャル」
「ここはどこ?」
「アーハンブラ城だ」

 『……アーハンブラ城』と口の中で呟くタバサ。タバサには聞き覚えがあった。それはエルフの土地『サハラ(砂漠)』との境にあるガリアの古城の名前であった。首都リュティスを中心に、ラグドリアン湖の丁度正反対の位置にある。
 状況から鑑みるに、気絶したあと、自分はここまで連れてこられたようだ。
 何が目的かはわからないが……。
 頭の中で様々の考えが生まれては消える中、最も知りたいことを問いかける。

「母は何処?」
「隣の部屋にいる」

 タバサの問いかけに、ビダーシャルが顔を部屋に設置された扉に向ける。ビダーシャルの顔が向けられた扉が目に映った瞬間、タバサは駆け出した。ぶつかるような勢いで扉に駆け寄ったタバサは、そのままの勢いで扉を開く。扉に鍵は掛かっておらず、抵抗なく扉は開いた。タバサがいた部屋は、貴人のための部屋であったのだろう。扉の向こうは、世話をするための使用人が住む小部屋であった。扉の向こう。小さな部屋の隅に設置された一人用のベッドの上には、母が横たえられていた。

「……かあ、さま……」

 飛び込むように部屋に入ったタバサは、たたらを踏みながら足を止めて小さく呟くと、ゆっくりとした足取りでベッドの脇に近付く。
 ベッド脇に立ったタバサが、ベッドに横たわる母を見下ろす。母は寝息を立て静かに眠っている。

「母さま」

 腰を落とし、母の耳元で声を掛ける。
 だが、母親は何の反応も返さない。硬く瞑られた瞼が動く気配はない。もしかすれば、魔法によって眠らされているのかもしれない。
 立ち上がったタバサが小さな部屋の中を見渡す。部屋の中を見回していたタバサの顔が、部屋の隅に設置された鏡台の上に置かれた人形を目にし止まる。かつて母が自分にと手ずから選んでくれた人形。『タバサ』と名付けた人形。今は心を病んだ母が『シャルロット』と呼ぶ人形。
 ズキリと胸に鋭い痛みが走り、顔が歪みかけたタバサの目が、背中に感じる視線に向けられる。自分が開け放った扉の隙間から覗くビダーシャルの顔をタバサは睨み付けた。
 タバサと視線が合うと、ビダーシャルは扉を開け放ち部屋の中に入ってきた。

「あまりにも暴れるのでな、眠っていただいた」
「何をするつもり?」

 ビダーシャルに険しい視線を向けるタバサは、自分を見るビダーシャルの目の中に、死を確定された実験動物を見るかのような憐れみが含まれていることに気付き顔が強ばる。

「どちらのことを聞きたい?」
「……母」
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