第十章 イーヴァルディの勇者
第五話 動き出した歯車
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…伯父からの最後の贈り物だ」
タバサの顎を掴み上げ、自らの眼前に近づけると、ジョゼフは禍々しい笑みを顔中に広げた。
「ああっ! ああッ!! 本当に悲しいことだッ! あの日、あの時、もしもシャルルが笑わなければ、お前は、お前たちは今も眩い笑みを浮かべ幸せの中にいただろうにッ! エルフの魔法により心を失うこともなかっただろうにッ!」
呵呵と哄笑しながらも、大粒の涙をボロボロと零すジョゼフの姿は異様に尽きた。
笑い声と嗚咽が混じる声で、ジョゼフは声を絞り出す。
「だがまだ足りないッ!! お前の愛した女を! 娘をどれだけ苦しめても……ッ! あの日の痛みには……後悔には遠く届かない……足りないのだ……ッ!!」
タバサから顔を離し、ジョゼフは顔を上げる。
高い部屋の天井を仰ぎ見ると、真っ赤に充血した目を見開く。
「もう止まることは出来んっ! この世界が壊れようともあの日、お前をこの手にかけた時よりも心が痛む日が来るまで、おれはこの世界を陵辱し蔑み続けるッ!! どんな手を、力を使ってでもだッ!! 誰にも止めることなど出来はしないッ!!」
「……ここは?」
目が覚めたタバサは、身体を起こすと左右を見回し声を上げた。眼鏡がなく、ぼんやりとした景色であったが、そこが自分の知らない場所であることはわかった。
広い部屋の中心に置かれた天蓋付きのベッドの上にいると理解したタバサは、肌に触れる心地の良い感触に目を落とすと、公女時代でさえ見たこともない程の豪華な寝巻きを身につけていることに気付く。僅かに眉を顰めたタバサは、大人でも五人は並んで寝られる程の大きさのベッドの上を進み、ベッド隣りに置かれた小机に近付く。その小机の上に、タバサは宝石が散りばめられた眼鏡立てに立てかけられた自分の眼鏡を見つける。
「…………」
眼鏡をかけ、鮮明になった視界で自分の身体を見下ろし異常がないことを確認すると、再度周りを見渡すタバサ。先程は気付かなかったが。寝巻きだけじゃなく、ベッドや小物、この部屋にある調度品はどれも桁が違うものであった。様々な知識が蓄えられたタバサの頭が、その調度品が前カーペー時代の調度品であると判断する。ガリア最大の隆興の時代の物だ。
「目が覚めたか」
「ッ!」
背後から声を掛けられ、咄嗟にベッドの上で身体を回す。
突然の動きにより、目の前が歪む中、細めた目に映ったのは、自分を難なく下したエルフの姿だった。エルフは部屋の入口付近に置かれたソファに座っており、何かの本を読んでいた。エルフから視線を逸らさず、手を動かし杖を探すが、指先にはベッドの柔らかな感触が帰ってくるだけ。閉じた口元が悔しげに歪む。杖がなければ、自分に抗う手段はない。いや、例え
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