第十章 イーヴァルディの勇者
第五話 動き出した歯車
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する喜びしかなかった。
だからこそ、ジョゼフは耐え切れなかった。
それが見当違いなものであったとしても、耐えられなかった。
憎むしかなかったのだ。
タバサの肩を掴み、喘ぐような声でジョゼフは声を上げる。
「お前があの時ほんの少しだけでもいい……悔しがれば……憎めば……絶望さえすれば……あんなことにはならなかった……ッ!」
オルレアン公シャルル。
猟の際、落馬し死亡。
その真相は、
「おれに殺されることはなかったッ!!」
兄であるジョゼフの手により、毒矢による暗殺によって死亡。
「……かつて……お前は言ったな。『兄さんは、まだ目覚めていないだけなんだ』と。お前の言った通りだったぞ。俺は目覚めたッ! 驚けシャルルッ!! 『虚無』だッ!! 伝説に唄われる魔法だッ!! お前は正しかったッ!! そう言えばお前はこうも言ったな。『兄さんは、いつかもっと凄いことができるよ』と。ハハハッ!! お前は預言者だったのかもしれないなッ!! 確かにその通りだッ! お前の行った通りおれは凄いことをしているぞッ!! 世界だッ! 世界を将棋盤にして対局をしているのだッ!! お前の言った全てが実現したぞシャルルッ!!」
広い部屋の中を、壊れたような哄笑が響き渡り……不意に途切れた。
シンっ、と静まり返る部屋の中、暫しの時が流れる。
音が消えた部屋の中で、ジョゼフはタバサの頬に触れていた指先を動かし唇に触れた。
「……口元は母に似たか……シャルロット。……お前の母は、心を狂わされようとも美しいな……感謝しているかお前は? お前が飲むはずだった水魔法の薬を代わりに飲んだ母を……それとも憎んでいるのか……」
唇からさらに指を動かし顎先に持っていったジョゼフは、タバサの細い顎を掴み上げる。
「お前は母の心を取り戻そうと、何やらやっていたようだが無駄なことだ。あの水魔法の薬は、エルフの先住魔法を使った複雑な薬だ。治すにはエルフの力が必要不可欠なのだ。それをまたお前に使うのは……いささか心が痛むな……だがやらねばならぬ。お前は飼い主であるおれを裏切ったのだ。裏切りには相応の罰を与えなければならないからな」
優しく柔らかな声で話しかけるジョゼフ。
傍から見れば、眠る我が子に愛を囁くような姿でありながら、タバサを見下ろす瞳の中には、見る者に怖気を震わす狂気が宿っていた。
「薬が完成するまでは、暫しの猶予がある。残された時間をどうするかはお前の自由だ。それが血を分けたお前に対する最後の慈悲だ。そうだな。折角だ、今までお前から奪ってきた王族としての時間も与えよう。王女としての時間も返してやろう。心を無くすまでの僅かな時間だが…
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