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剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第五話 動き出した歯車
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 ビダーシャルが部屋からいなくなり、残ったのは黄昏の光を背に立つジョゼフとその足元に倒れたタバサだけだった。
 膝を折り、エルフの魔法により深い眠りに落ちたタバサをそっと優しげに抱え起こしたジョゼフは、タバサを玉座の上に横たえた。険しい顔を浮かべるタバサを見下ろすジョゼフの瞼が閉じられる。瞼の裏に浮かぶのは、今は亡き弟の姿。
 己と違い、誰にも優しく、聡明で、才能に溢れた弟……オルレアン公……。
 弟の面影をなぞるように、ジョゼフの指先がそっとタバサの頬を撫でる。

「……シャルル……お前は本当に将棋(チェス)が強かったな……今でもお前ほどの指し手には会えていない……。だからお前がいなくなってから、おれはもう退屈と絶望で死にそうだ。だから、自らゲーム(対局)を作るようになってしまった。なあ、驚くかシャルル? 今度のゲーム(対局)エルフ(亜人)と組み、人の理想と信仰を潰すのだぞ。ボード(将棋盤)はハルケギニアどころか、エルフの土地(サハラ)、聖地その全てを含む全世界だ。その全てを盤におれが指すのだ……凄いだろシャルル……」

 何も答えないタバサに呟き続けるジョゼフ。
 タバサの顔に残る弟の面影に語り続けるジョゼフ。
 語りかけるたびに、かつての記憶が蘇る。
 遠い……遠い日の思い出が。
 まだ父が生きていた時代。
 無能と蔑まれた日々を。
 才能溢れる弟と比べられた日々を。
 弟と比べられる度に感じていた怒りと悔しさを……弟から慰められる度に感じていた惨めさを……。 
 
 閉じた目の縁から涙が溢れ、タバサの頬に落ちる。
 
「何故、だ、シャルル……」

 ぐるぐると脳裏で回想されていた過去の最後には、三年前、前王であった父が倒れた時の記憶が流れていた。
 自分が王に選ばれた時の記憶が……。

「どうして……お前はそうも美しくあれたのだ……」

 誰もが……自分でさえ次王は弟であるシャルルが選ばれると思われた中、選ばれたのは無能と蔑まれていた筈の自分であった。
 あの時生まれたとてつもない歓喜とシャルルに対する優越感は、シャルルが浮かべた晴れ晴れとした笑顔によって数倍の絶望に変わった。誰もが次王はシャルルだと思っていた。シャルルさえそう思っていただろう。
 それなのに、選ばれたのは無能と呼ばれたおれだ。
 悔しい筈だ。
 絶望した筈だ。
 憎んだ筈だ……。
 なのに、

『おめでとう』

 今でも一字一句思い出せる。

『兄さんが王になってくれて、本当に良かった。ぼくは兄さんが大好きだからね。ぼくも一生懸命協力する。一緒にこの国を素晴らしい国にしよう』

 嫉妬も邪気も皮肉も……何もなかった。
 その中には、ただただ兄の戴冠に対
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