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剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第五話 動き出した歯車
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……しかしやはり理解が出来ないな。何故お前たちはあれ(・・)を聖地と呼ぶのだ? かつてこの世界を滅ぼしかけたシャイターン(悪魔)が現れた門を……」
「世界を滅ぼしかけた……か、そこがわからないな。何故我らが聖地と呼ぶものをお前たちエルフはシャイターン(悪魔)の門と呼び恐るのだ」
「それはお前たちが知らないからだ」
知らない(・・・・)? ふむ、認識の違いではなく『知らない』のか?」

 ジョゼフが眉を微かに曲げ困惑を示し、ビダーシャルは目を閉じた。己の目に宿る恐怖を隠すかのように。

「……まあ、知らないのは無理もないことか……シャイターン(悪魔)は無数の国を滅ぼした。蛮族も我らエルフの国さえ例外なく、その文化文明……知識さえ…………生き残れたのは僅かに我らエルフだけだった」
「ほう……虚無とはそこまで」

 感心するように声を漏らしたジョゼフに、ビダーシャルは首を振る。

「虚無ではないシャイターン(悪魔)だ」
「同じではないのか?」

 ジョゼフの目がほんの少しだけ細まる。

「違う。確かに我らの中にも虚無とシャイターン(悪魔)を同一しているものがいるが、全く違うものだ。我らの予言には、こう唄わられている『四の悪魔揃いし時、真の悪魔の力は目覚めん。真の悪魔の力は、再び大災厄をもたらすであろう』と……だから勘違いしても仕方がないが……」
「……『四の悪魔』が虚無で、『真の悪魔』とやらがシャイターンだと言うことか」

 小さく頷くビダーシャル。

「言うなれば、虚無は鍵だ……『真の悪魔』が現れる……『シャイターン(悪魔)の門』を開くためのな」

 閉じていた目を更に強く瞑る。

「……六千年前の……『真の悪魔』……シャイターン(悪魔)による大災厄……たった十三日で……百万のエルフが一万にまで……っ……貴様ら蛮族の国は文字通り消し飛んだ…………鍵を揃えてはならないのだ……決して…………」

 目を隠そうとも、その声から隠しきれない恐怖が滲んでいた。

「そこまでか……『真の悪魔』とやらの力は」
「桁が違う。血の如き赤き槍の一突きで、数百のエルフが串刺しにされたと……歪な剣の一振りで、城壁を崩されたと……矮躯な男の拳により、数百のエルフの戦士が殺されたと……我らエルフは幼き時から諫められる……決して『真の悪魔』を目覚めさせるなと……奴らは世界を滅ぼすシャイターン(悪魔)だと」
「そのためならば、蛮族と手を組むと」

 にやりと口角を曲げて笑うジョゼフを、片目を小さく開いたビダーシャルが睨み付ける。

「そうだ。大災厄から六千年。これまで幾度となく虚無()は揃いかけたが、その度に我らはあらゆる手を使いそれを阻止してきた。だが、今回は何か様子が違う。ここ数十年、|シャイ
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