理想の先と彼の思惑
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聞いてみたくなった。このような思考を持つ人が私達と同じだというのはおかしい気がして。
「……俺は始まりに多少の格差はあろうとも個人の努力の度合いによって人それぞれが自分の幸せを安心して探せる平穏な世界を望む。身分や血筋ではなく才で評価され、才あるモノは民のためにそれを振るう。守られているだけではなく民にも才伸ばす機会が与えられ、皆で法と規律による秩序の中で競い合い助け合い成長し合う。俺が王ならそんな世界が作りたい。理想じゃなくてこれは目標だけどな。これは桃香の理想の通過点になるか」
本当に困難な道だがギリギリ手が届く範囲の目標を語る。この人らしい。
「それと……関係ない話だが人の心は変わるモノと思っているんだがそれが必ずしもいい方向に行くとは思えない。いい人もいれば悪い人もいる。それにいい心も悪い心も、どちらも併せ持ってこそ人だと俺は思う。だから信じるだけじゃ危ういんだ」
言われて思い出す。私はこの人と出会った時にその事を教えて貰い乗り越えられた。
この人はあの頃から何も変わってはいない。それが少し嬉しく思う。
同時に私は衝撃的な事に気付いてしまった。
この人こそ王に相応しいと。
命の取捨選択を行う覚悟を飲み、大陸の未来を見据え、民のために尽力し、桃香様でさえ導き、理想と現実との格差を説き、人の清濁を理解して注意を喚起し、全てをかけて平穏な先の世のために動くこの人は十分に王足りえる。
しかし問題が二つ。
一つは自分で立つつもりが無いこと。この人は自分に対する評価が驚くほど低い。桃香様の成長を待っているという時点でその上をいっているというのに。
もう一つはこの人自身がその本質を隠していること。桃香様に影響を与えないようにわざと自分の考えを殺している。皆に知られていないだけでこの人に付いていこうとする人は大勢いるだろう。
徐晃隊などがいい例だ。密かにこの人の事を『御大将』と呼び、副長さんは自分の主は徐晃将軍ただ一人だと公言している。規律の緩いこの軍でこそ許される事だが。
私が勧めたらこの人はご自分で立ってくれるだろうか。
「雛里、王として掲げるべきなのは桃香だ。俺はただ一振りの乱世に振るわれる剣だ。民の希望の標は桃香こそがなり得る」
私の考えている事を先読みされて驚愕する。
恐ろしい。だがどこか安心感も感じてしまう。最初に私の悩みを聞いてくれた時のような。
この人は自分で気づいてる。自分がどんな話をしているか。自分がどんなモノかも。
きっとこの人はこの先も心を砕いて待つんだろう。自分を抑えて耐えるんだろう。
もう賽は投げられている、だからこの人の覚悟は変えられないし変わらないということ。
「ごめん」
その短い謝罪にはいろいろな想いが詰められている。
悲しそうな目をしないで欲しい。
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