理想の先と彼の思惑
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こともあるだろう。
私たちは次の世に平穏を繋げたい。それなのにそんなものを残しておくなんて……確かにできない。
「自分の治める地域だけじゃダメだ。大陸を呑みこんでこそ、大陸全てに桃香が掲げたモノが一番力を持ったと示してこそ初めて長い平穏が手に入る。庶人も権力者達も納得し、ついて来てくれるだろう。しぶしぶ従うような、負けを認めない愚か者はどうせいつか裏切るし反抗する。次の世代に争いを引き延ばそうとするだろう」
確かに統一すればまとめ上げた後で欲に走るものが出ても抑えやすい。
中途半端に妥協してしまうのは愚の骨頂。相手が善政を敷いていようとも従ってもらう事が一番だ。
それぞれに任せるでなくしっかりとした統一を行わなければ時が流れると格差が大きくなる。開いた格差は新たな野心を生む。
次の世代が争わないように出来る限り動く、やりきるとはそういう事だ。
だからこの人は辛そうだったんだ。
桃香様が持った覚悟が未だに不完全だから。
この人と一緒に矛盾を背負うと言った自分が愚かしい。私は何も分かっちゃいなかった。
私の目を見つめていた秋斗さんは突然いつもの優しい瞳に戻った。
「ごめん、今の話は忘れてくれ」
瞳の優しさとは反対に哀しい声で紡がれたその言葉でも私の思考はもう止められない。
どれだけ、この人はどれだけ先を見ているのか。
私達と全く違う思考。この軍に、桃香様の元に所属していて何故その考えに至る事ができるのか。
そうか……誰よりも一番桃香様の理想を理解しているからこそ必要な事が見えているんだ。
今の命よりも先の平穏を。
先に生きる人々から争いを奪うために。
また……私は甘い理想に溺れそうになっていた。
「いいえ、忘れられません。私は……また間違いました。私にもっと秋斗さんの考えを聞かせて欲しいです。一緒に背負わせてください」
もっと知りたい。この人の事が。この人の思考が。少し面喰った顔をしてから真剣な表情で秋斗さんは話し始めた。
「……俺の一意見だが、お前達の優しい論理は人を信じていればこそできる尊いモノだと思う。本当ならお前達が正しいだろう」
私たちの論は人の本質が善だけならばの話。上手く行った時の事しか見えていない理想論だと今なら思える。
「でも人の欲を抑えきるのは心と、他にも必要なものがある。統一された法と規律での秩序が必要だ。その決められた線の中で初めて心、徳が意味を為す。
覇だの徳だのと拘っていたらいけない。どちらも持って初めて本当の平穏は手に入るし乱世でもそれは同じだ、と俺は考えている」
自分の価値観が壊されていくのが分かる。天井が抜けて青空が覗くように、見ていた世界が広がっていく。
「秋斗さんは、もしかして桃香様とは違う理想を持っているのではないですか?」
ふと
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