理想の先と彼の思惑
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かもしれない。
憎んで怨んで人生を終えてしまう人もいるだろう。
親を奪われた子供は、愛する人を失った妻は、信頼する友を失った人たちは……。
私達は恨みも憎しみも受けてしかるべき事をしてきた。
その人達を私達では幸せにできない。
誰も争わなかったらこんな事にならなかったのに。
皆で手を繋げたなら犠牲も何もなかったのに。
一人じゃ何もできない。私達だけじゃ理想の世界は作れない。
そこで一つの卑怯な考えが頭をよぎる。
「……私達がダメでも共にいる近しい人なら笑顔を作れる」
紡いでその意味を明確に理解する。これは他力本願の責任放棄だ。
「そうだな。奪った幸せは戻らないが人それぞれ新たな幸せは探せるな」
私達では傷つけてしまった人に笑顔は作れない。なら他の人に笑顔にしてもらうしかない。
「私達は怨まれても憎まれても争いのない世界を作るしかない。その人たち個人で違う幸せを見つけて貰うことしかできない」
「傲慢なことだ。罪深く、愚かしい。お前の描く理想の世界はお前自身の手で作りたいんじゃないのか?」
心に言葉の刃が突き刺さる。しかし思考を続ける。
私だけで作れるなんて考えた事はない。愛紗ちゃんや鈴々ちゃん、皆がいて初めて作ろうとできた。
そうか、私達は理想の世界の土台を作る事しかできない。
皆で手を繋いで、そうして初めて理想の世界は作れるもの。
手が震える。私は殺された人の家族に手を繋いでくれと言おうとしていたんだ。自分勝手に相手の気持ちも考えず、そこにあるであろう感情も無視して。
そんなバカな事を本気で考えていたんだ。
「私は皆で作ろうとした。その輪を広げたらいけない事なのかな?」
「俺に聞くな。その先を見据えて自分で考えろ」
再度厳しく突き放される。
私は土台を作り、後の世の中までその想いを繋げないといけない。
そうすればいつか理想の世界になっている。力を行使した私にはそれしか方法はない。
いや違う。それこそが私が掲げた理想の世界を作るという事。
争いが起こるのを止めて、もう同じ事を繰り返さない世にするということ。
誰も今以上に傷つかないようにして、そこからやっと初めの一歩を踏み出せる。
「私たちは理想の世界を見る事はできない。けど想いを繋ぐ事はできる。……私達は命をかけて理想の世界の足がかりを作る」
確固とした答えに行き着く。今の世の中じゃ到底足りないし私達にその世界を生きる資格はない。
怨みが、憎しみが途切れた時に初めて優しい世界が作られる。
「お前はそれでいいんだな?」
「……立った時点で気付いているべきでした」
「……そうだな。それがお前の理想の本当の姿だ」
その言葉に一つの疑問が浮かぶ。
「……秋斗さんは最初から分かってたの?」
「ああ
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