人中のために音は鳴る
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た。今、この人の心は耐えがたい悲鳴を上げている。
自然と自分も涙が出てきた。
同時に覚悟を決めた。この人も、仲間全ても守る覚悟を。
「恋殿、戻りましょうぞ。そして皆で、戦いましょう。そうしなければ、いけないのです。華雄に続き、恋殿までもがいなくなってしまっては、月は……ねねは……」
しゃくりあげながら語っていたが言葉が続かず耐えられなくなり、愛しい人に縋りつこうとしたが気力で踏みとどまった。
ぐっと腹に力を込め、溢れる涙を抑え付けようと精神をも総動員するが出来ない。
悔しくて俯いた途端にふっと頭が撫でられる。
この人はどこまでも優しい。今は自分も辛いはずなのに気遣って癒してくれる。
その優しい手つきに少し勇気を貰い、顔を上げて声を上げた。
「副隊長! 全軍、今夜の内に、虎牢関を破棄! 洛陽まで下がり、最終戦に備えるのですよ!」
なんとか紡げた号令に、控えていた副隊長は応、と一つ返事をし全部隊のまとめに動いてくれた。
「……ごめん、ねね」
「いいのです。皆で、守りましょうぞ。絶対に勝つのですよ」
ゆっくりと頷き、優しく抱きしめて背中を撫でつけてくれるその温もりは、自分が守るものを改めて確認させてくれた。
†
「バカばっか」
小さく呟かれたその声と、瞳の奥の昏さに心まで凍りつきそう。
戦場の全てを予測していた彼女。火計があるのはわかっているとあたしにだけは話してくれていた。
恐ろしい。夕はたった一つの目的のために全てを巻き込んでいく。
「明、無茶させてごめん」
さっきの冷たさを感じさせない優しく甘い声に身体の芯まで暖かくなる。
あたしが守りたいのは、今はこの子だけ。出会った時からずっとそうだった。
「いいよー。どうせ紀霊じゃ役不足だったし。久しぶりに本気で戦ったから疲れちゃったけどね」
守りだけは本気だった。文醜と顔良が訝しげに尋ねて来たけど「二人を守りたかったから強くなれたのかも」と嘘を吐いたら感動してたなぁ。
「予定より捗ったんじゃないの?」
「うん。もっと削れると思う」
この子はどこまで先を見ているのか。欲の張った年寄り達の脳内なんか看破するのは簡単なんだろうな。
ただ不安な事が一つ。
「それより夕、本初が袁家の傀儡なのは分かってると思うけど助けるの?」
この子はシ水関から迷いはじめた。本初も救うかどうかを。それならば本初自身も覚悟を決めて貰わないといけない。
「救うなら今回の被害はちょっとまずいよ」
「わかってる。どっちもいけるように攻城戦に向かわせた兵は弱卒がほとんど。これから本初の心を直接確かめる」
確かめるってことはやっぱり救いたいんだ。切り捨てるつもりだったのに。
「夕のしたいようにしなよ。あたしは絶対にあなたの味方だから」
秋兄
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