人中のために音は鳴る
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た所を他の兵に踏まれて身動きが取れない者。いい的だ。
恋殿の弓の腕も天下一。少しでも統率力のある部隊長は火計の前にほとんど下がらせている。残っていたとしてもここで退場してもらうだけだが。
「恋殿がいればこそ、なのですよ」
「ねねも、さすが」
言いながらも次々と隣で矢を射ていく。本当に頼もしい。
煌々と燃える火は、敵の戦意を削ぐにも十分だった。
士気などあるものではなく、もはやただの狙撃練習に等しい。
「気を抜かず敵が目の前から消え去るまで矢を打ち続けるのですよ!」
虎牢関付近にいる敵はもはやいない。まだ少し燻っている火は静かに辺りを照らしている。
「陳宮様! 敵はすべて後方に下がったようです!」
もう一度奇襲をするわけがないが万が一を考えてだろう。攻めてくるなら日が昇ってからになるはず。
火計による敵の被害は上々、だが奇襲の分と計算しても戦況は覆らなかった。
今後のするべきことを考えるため思考に潜る。
明日からも虎牢関でこのまま不利な状況を押して戦い続けるか、それとも洛陽まで引くか。
残るなら恋殿にかなりの負担をかけてしまうだろう。しかも霞が戻ってくるまでは耐えきれず、途中で撤退を余儀なくされるのは目に見えている。
この二、三日は兵達の士気も高く保てるだろう。だが霞の隊が抜けてしまい減った兵数によってすぐに士気は下がり始める。
引くなら今からでもそうするべき。明日になるとまた連合との攻城戦が始まってしまうのだから。連日の攻城戦と今回の奇襲の疲れを早期退却によって癒すのも大事。
どうしたらいいのだろうか。こんな時に詠がいれば長い目で予測して自分より最善の判断を下してくれるのだが、今この場に軍師は自分一人しかいない。
ふと隣の愛する人に目をやる。
頼もしいいつも通りの飛将軍。
見つめていると目が合った。その瞳はいつも通り……とは違った。
奇妙な違和感を感じて少しその理由を自分で考えたが見つからず、素直に尋ねてみる事にした。
「……恋殿、何かあったのですか?」
疑問を向けるとさっと逸らされる。瞳の奥を覗いた後で見る愛しい人は、何故かとても小さく見えた。
「……月に、会いたい」
消え入りそうな呟きに続き、頬をはらりと零れ落ちる一粒の涙。
その言葉と涙に自分の中ではさらなる思考が巡る。
夜戦中に何かあったんだ。この人を壊しかける何かが。しかしこれは……あまりにひどすぎる。
こんな状態では戦い続けられない。この大好きな人が死んでしまう。肉体も、心も。
月に会ってから残酷な冷たい人形ではなく血の通った人となったこの方は、戦で自分を殺していたこの方は、また元の人形になってしまう。そしてもう……優しい『人』にはきっと戻れなくなる。
予測ではなく確信に行き着い
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