人中のために音は鳴る
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冥琳様」
戦況を見やりながら舌打ちを一つ打ったと同時に、虎牢関に工作に向かわせた思春が帰ってきた。
「どうした?」
「それが――」
声を潜め、耳に口を近づけて為された報告を聞き身が凍った。陳宮め、なかなかやる。
「伝令を各隊に飛ばせ。被害を抑え、虎牢関は袁家両軍に任せろ、とな」
己が命を聞いた思春は短い返事の後に煙のように消え、伝令の統率に向かった。
今回はこちらの情報収集能力の有能さが功を奏した。
危うく手柄に踊らされ大打撃を受けるところだった。
曹操軍は掛からないだろう。読んでいるわけではないだろうが運が味方したな。
虎牢関は日を置いてになるか。
†
袁紹・袁術両軍はなかなか食いついてきている。曹操軍は下がってしまい思うような被害は与えられなかった。
ここで関に撤退しておくべきか。
「全軍に通達! 呂布隊を殿に虎牢関に引くのですよ! 陳宮隊は袁術軍側に一当てして押し込み、呂布隊は後退しながら左右に広がるのです! 合図の銅鑼を!」
恋殿は大丈夫。そう自分に言い聞かせ不安でいっぱいの心を無理やり抑え付ける。信じられなくて何が軍師か。
しばらくして一番最先端で戦う恋殿の姿が見えた。
勝てないと悟ったのか、有利な状況で将自身被害を受けたくないのか敵は兵の被害を減らすための防戦主体の戦い方をしている。
しかしさすが飛将軍。武将相手に四対一でそのように戦わせられるモノなど先の世にも出てくる事はないだろう。
「陳宮様! 例の準備、完了しております! あとは虎牢関にて対応を!」
「わかったのです!」
兵の報告を聞いて頷き、また暗がりの戦場に目を置きなおす。
戦場での指示はこれ以上はいらない。後は城壁にて指示を出すのみ。
「ふふふ、生贄は袁家ですな。ねねたちの恨み、喰らうがいいのですよ」
†
銅鑼の音が三回鳴り響き、董卓軍が虎牢関への撤退を始めた。
「策殿、呂布の相手はそろそろ終わるべきじゃな」
目の前の化け物は倒せない。せめて自軍の兵が後退しきるまで、被害を抑えるために戦っていたがあまりの強さに今の今まで引きずられてしまっていた。
「了解。呂布、あなた強すぎて倒せそうにないからそろそろ引かせて欲しいんだけど」
四対一の状況で傷も負わずに、しかも連戦の後なのに戦いきるその姿に感嘆の念を禁じ得ない。
「……どうぞ」
こちらが敵意を下げると撤退し始めた董卓軍の部隊を見て呂布は答える。
「文醜も顔良も引いたら? 死にたいなら別だけど」
そう二人に言うと彼女らも撤退の意思をみせた。袁術軍じゃないし仕方ないか。
袁術軍の兵士を殺してくれる呂布はこちらにとっても利がある。
我が軍はほぼ後退しきっている今、もはやこれ以上ここにはいなくていい。
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