ヒカルの力
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「ヒカルは、私にとてもよくしてくれています。それでも、違和感が拭いきれません。なぜ私にあんなに構うのか。そして、ヒカルの強さも」
「進藤の、強さ。どういう意味ですか」
今や塔矢と佐為は道端に止まって話している。佐為は少し間を置いてから言いにくそうに答えた。
「ネット碁で、チャットして、塔矢先生がヒカルのことをとても評価しているのを知りました」
佐為は「塔矢先生がヒカルをsaiだと思ったことがあるらしい」とは言えなかった。あのことは、何か言ってはいけない気がした。
「父は、進藤の新初段シリーズの時、逆指名したほどです」
「逆指名?」
知っているのは一部の人間だけ。テレビの前で賭けを持ち出した桑原。机に置かれた一万円に塔矢は疑問を抱かなかった。この二人も進藤に何かを感じているんだろう、と直感した。しかし、もし塔矢があの賭けに加わっていたら、彼は塔矢行洋に賭けた。
「昔から父は進藤を買っていました。僕が進藤を追い続けていたこともあるけれど・・・」
「塔矢さんも、ヒカルに特別な何かを感じたんですか?」
数秒置いて、塔矢は問いかけた。
「佐為さん、進藤の囲碁歴を知っていますか?」
「?確か小学六年生から碁を初めて、中学一年生には院生になって、プロ試験を一発で通ったんですよね」
「石もまともに持てない、碁を初めて間もない子供が、高段者と変わらない棋力を持っているなんてこと、信じますか?」
何のことを話しているのか、佐為は初め理解ができなかった。目の前にはシリアスな瞳を揺らして、ゆっくりと言葉を紡ぐ塔矢がいる。その言葉の意味が分かった時、佐為は脈拍が上がるのを感じた。
「僕は小学二年から碁を打ち続けていて、周りにも実力を認められていました。小学六年の冬、僕は碁会所で一人棋譜を並べていたんです。そこに対局もしたことがない子供が現れました。軽い気持ちで打ってみましたが、僕は二目差で負けました。・・・しかも彼は、指導碁をしていたんです」
「塔矢さん、その子供って」
塔矢はこくりと頷いた。
「進藤です」
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