第四十五話 少年期【28】
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た。2人の間にある空気はピリピリしており、お互いが真剣な表情で、デスクの上に置かれていた書類に目を向けていた。
「ついに、この時が来たな」
「えぇ、そうですね。正直俺自身、本当に実現してしまったことに、若干の楽しみと後悔と謝罪の気持ちでいっぱいいっぱいなんですけどね」
アルヴィンが初等部1年生の頃、総司令官からある相談事を持ちかけられたことがあった。その当時の彼は、本当に軽い気持ちで答えてしまったのだ。そして、そんな冗談で言ったはずのことが、本気のプロジェクトとして始動してしまったのである。おじいちゃんの行動力を舐めていた、とアルヴィンですら頭を抱えさせた。
「覚えているか。このプロジェクトの始まりを」
「……覚えていますよ。本当に、なんで実現させてしまうんですか」
「なんじゃ、乗り気でないな。あの時はノリノリで語っておったであろう」
『管理局の人材確保と宣伝のために良い方法はないかのぉ』
あの時、総司令官が何気なくつぶやいた言葉。その時は転移便のために来たアルヴィンと総司令官しかおらず、2人きりで執務室で仕事をしていた。もしあそこに副官であるゲイズがいれば、総司令官の暴走は起こらなかったであろう。しかし、それは今はなき運命であった。
アルヴィンとしては、暇つぶしも兼ねたものだった。冗談で笑いながら、おしゃべり感覚で、総司令官のつぶやいた言葉に対する答えを、アルヴィンは言ってしまったのであった。
『そんなのあれですよ、おじいちゃん。未来に集う子どもたちの心をキャッチするには、アニメとか戦隊物が一番です。そして今を頑張る若者には……癒しと宣伝を兼ねたアイドルが必要なんですよ』
「実現するなんて思わねぇだろォー! 管理局が実写やらアニメ制作に乗り出したって聞いたときは、驚きを通り越して呆然としましたよ!?」
「いい案ではないか。実際に、イベントの少ないミッドの事情で、次元世界の子どもたちには我慢させとるんじゃ。親子共に盛り上がれるアニメーションは面白そうだしな。ゲイズとイーリスの子どものためにも、曾じいちゃんは頑張るのさ」
「おじいちゃん、まだ2人とも結婚していないよ。これ以上外堀を埋めてあげないで」
もちろん次元世界にもアニメの文化はあったが、そこまで注目を浴びるものではなかった。魔法が当たり前のように隣にある世界である。摩訶不思議さなんて今更感じないのだ。そのためミッドの子供向けの番組は、大半が学習関係だったり、魔法競技系のものばかりであった。
戦隊物ないのかよ、と子どもだからこそがっかりした記憶がアルヴィンにはある。悪に立ち向かうヒーローってかっこいいじゃん、という遣り切れないそんな気持ち。そんな俺の妄想が口から出てしまい、総司令官に届いてしまったのであった。
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