飛将軍来る
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剣戟の音が戦場中に響いていたがその場は特に異常だった。
鈴々も愛紗も異質な空気にいつもとは違うモノを感じているのか無言だった。三体一で全く歯が立っていないのだ。
遊ばれているようにも見える。
本気を出せばいつでも殺せるように見える。
そして三人の攻撃をいなしながら周りの兵を殺している。デタラメにもほどがある。
俺は走りながらまだ少し遠くの赤い髪の悪魔と目が合った。
ドクンと心臓が跳ね、耳鳴りが高く鳴り響き、脳髄の奥から警鐘が鳴り続ける。
逃げろ、今は死ねない
強迫観念にも似たモノが込み上げてきて、反射的に身体が震える。この世界に来て初めて体感する本物の死の恐怖が心を襲ってきた。
思考が巡り恐怖が心を捉えて離さない。
「秋斗殿、鈴々、覚悟を」
突然の愛紗の言葉が耳に届きさざ波のように反芻された。
覚悟を決めろ、生き抜く覚悟を。
心を止めろ、恐怖の震えを。
自分で自分を鼓舞し、落ち込む思考を無理やり前に向け、
「あれを止めよう」
自分のすることを言葉にすると恐怖がほんの少しだけ薄らいだ。
「お前が呂布だな!?」
愛紗はあらん限りの闘気をぶつけて言うと、呂布はこちらに意識を尖らせコクリと頷いた。
「我が名は関雲長! 平原の相、劉元徳が臣なり!」
「張翼徳、右に同じくなのだ!」
「……徐公明、尋常に勝負、とはできそうにないな」
ヒーローモノの悪役みたいな登場だなんて考えながらさっきまで戦っていた三人に向け頷く。
これ以上の被害を増やさないよう、自分達も死なないよう守り一辺倒で戦っていた三人はどこか安堵したようにその場から散った。呂布軍の兵が袁術軍に到達したためか。
彼女らの体はそこかしこに傷があり疲労は見てとれるほど。いつも飄々としている明でさえ青ざめた顔になっていた。
「秋兄、ごめん。任せた」
通り過ぎ様に明が呟く。無茶を言うな。
「呂布! 武人として卑怯かもしれんがお前相手ではそうも言ってられない! 三人で当たらせてもらう!」
三人が完全にこの場から確認したのを見てから愛紗が叫ぶ。だがその通りだ。こちらとしても一人じゃ敵わないのだから。
「……お前」
不意に俺を指さしての一言。
「……は?」
いきなり呼びかけられて一瞬だけ思考停止してしまった。
「……華雄のカタキ」
言葉が紡がれた途端、辺り一面をありえないほどのプレッシャーが襲った。
飛将軍の本気の殺気に充てられて周りの兵が蜘蛛の子を散らすように逃げ出し始めた。愛紗と鈴々は腰を落としてすばやく迎撃態勢を取る。
心に殺しきれなかった恐怖が再燃する。逃げたくなる心を抑え付け自分も迎撃態勢を取った。
その時頭にノイズが走り、懐かしい白の世界が頭をよぎった。すると突然自分に纏わりつ
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