飛将軍来る
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のです! では二人とも、そろそろ部隊に向かいましょう。欲しか頭にない獣たちを、月の光を背に喰らい尽くすのです!」
†
夜襲を想定して陣をある程度空にし、後方に部隊を配置していた。
空陣前の明かりで奴らが抜けてくるのが確認できた。
「本当に来おったわ。公瑾の言った通りになるとはの。先頭は……呂布か。化け物相手は一人では無理じゃのう。兵達よ! 呂布が来た! ありったけの矢で歓迎してやれ!」
言いながら自分も愛弓に矢をつがえ、呂布に狙いを定めると、まだ遠くにいるのに何を感じ取ったのかこちらと目が合う。
瞬間、身体に悪寒が走った。圧倒的な死の気配が足元から髪の毛の先まで纏わりつき、構えがぶれそうになったが気力で抑え込んだ。
「恐れるな! まだ遠い! 合図まで待て!」
浮足立った兵達が矢を放ちそうになっていたので大声を上げて制する。しかし恐れるなとはよく言ったものだ。自分も同じだというのに。
「……三、二、一、放てぇ! 次、直射するぞ! 部隊構え……放て!」
次々と放たれ、放物線を描く矢と真っ直ぐに力強く飛んでいく矢は呂布の部隊に吸い込まれ、敵の影をまばらに引き倒していく。
ただ――誤算があった。
先の矢の届くより早く呂布が単騎で突出してきたのだ。自分が放った矢は難なく躱され、兵の直射は全て長い得物によって弾かれている。そして単騎のみの突撃の速さは迎撃態勢が整う前にこちらの部隊に届くほど。
「いかん! 呂布は後ろに流すのだ!」
叫ぶと同時に呂布が兵めがけて突っ込むのが見えた。
兵の叫びは暴風にかき消され、馬上よりの一撃で兵が五人は吹き飛び、宙を舞う。
鮮血が夜の月を彩り、続けて人が紙の如く弾き飛ばされていく。
「化け物が!」
毒づきながら矢を構え呂布に向けて放つ。しかし意にも返さない様子で、振り返りもせず軽く振った方天画戟に弾かれた。そのままの動作で放たれた方天画戟の一振りによって鍛え上げた兵が幾人か千切れ飛んだ。
その光景に背筋が凍り、弓を持つ腕にふつふつと泡が立ち始める。
「呂布よ! 天下無双が兵をただ惨殺して楽しいか!」
感情を振り払うように大声で叫び、自身をも奮い立たせる。
勝てるわけがないが少しでも意識を逸らさせたい。こちらに来たら逃げるが。あれとは一対一では数合と持たないだろう。
だが呂布はこちらには見向きもせずそのまま突き進んで行った。次第に小さくなる影に戻ってこない事を確信し、安堵を覚えてしまっている自分に舌うちをしながら兵に指示を出した。
「呂布隊が来る! 迎撃しつつ緩やかに後退せよ!」
あれは止められない。ならばどこまでも抜けて行け。初めから厄介事は袁術に押し付けるつもりなのだから。
たった一人によって混乱を大きくされ、壊滅させられるわけにはいかない。
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