第19話「惚れ薬」
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修学旅行明けの朝。
「ん……しょ」
両手に様々な茶菓子を抱えて、ヨタヨタと大変そうに歩いている少女がいた。長い黒髪に温和そうな優しい顔立ち。ジーパンに半袖のTシャツを着て、近衛木乃香は歩いていた。
荷物の質からみても、特に重いというわけではないだろうが、何より量が多い。完全に手が塞がっている状態だ。前が見えなくなるほどにギリギリの高さまで掲げられたその紙袋を抱えて歩く姿は、元々運動神経が良くないことも手伝ってか、今にも転びそうに見え――
「あ」
――転んだ。
正確には道につんのめった、と言ったほうが正しいだろう。木乃香は無事にバランスを保ったが、その衝撃で、抱えられていた荷物がそこかしこに四散してしまった。
「あちゃー」
慌てて荷物を拾おうとしゃがみこむが、元々随分な量だったので少し時間がかかりそうだ。
――ここで、誰か男の人が助けてくれたら、まるで白馬の王子様みたいやなー。
中学生らしいといえば、らしい考えをもって荷物を集めていく。もちろん、彼女とてそんな夢みたいな人間がそうそういるとも思っていない。事実、周囲の人間は誰も手伝おうとすることもなく、淡々と通り過ぎていく。
木乃香も「やはり」という思いで、荷物集めを続けていく。そして、ほとんどそれを終え、最後の一つを拾おうとした時、その人は現れた。
「はい」
「……え?」
目の前に差し出された最後のお菓子に、恐る恐る顔をあげた。
――残念ながらその人は王子様ではなく、小さなお姫様だったが。
「どうぞ、おえねちゃん」
「あ、うん。ありがとう」
――それでも木乃香にはやはり眩しく映ったことだろう。
お礼を言いつつ、それを受けとった。
「ほら、マユ行くわよ〜」
ほんの少し離れたところから優しそうなお母さんの声が、届いた。
「あーママ、待ってよ〜」
マユと呼ばれた小さな女の子は、そのまま駆けていく。これでこの出会いは終わりだろうが、木乃香は反射的にその子の名前を呼んでいた。
「あ、マユちゃん?」
「――え?」
急に名前を呼ばれた少女は立ち止まり振り返った。
「ありがとー、助かったえ。はい、これお礼」
そう言ってチョコレートを手渡した。
このチョコレート、朝に自室にあったのだ。おいしそうと思い、道すがら食べようとして忘れていた。手荷物のお菓子をあげるわけにもいかないので、木乃香なりの精一杯のお礼だった。
「わ〜、ちょこれーと?」
まだ舌足らずな声が可愛らしい。
微笑ましくなって「そうやで」と頷く。マユは「ありがとう、おねえちゃん、じゃあね!」と元気よく、彼女の母の元へと駆けて行った。
そ
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