第19話「惚れ薬」
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か」
彼女達が諦めたのを見届けたタケルは大きく息をついた。誰もいないことを確認。ステルスを解除し、あくまでもばれないようにそっと歩の向きを換える。
「つ……つかれた」
半ばゲッソリとしているが、それは無理もないことといえる。
楓は忍者というだけあって彼の行く先々で、まるで待ち構えていたかのように現れた。
マナは巫女とは信じられないほどの精度で射撃を続け、しかもその銃弾がまるで殴られたかのような鈍痛を引き起こす。恐らく軽い痣やたんこぶが出来ているだろう。
しかも二人揃って、まるでステルスの存在を無視して捕まえてくるのだ。逃げるほうも必死である。
唯一、穴と思われたクーも楓やマナの指示を受ければ、まるで虎の如く中国拳法を駆使して襲い掛かる。その技量に成すすべなく何度も殴られた。
――手合わせどころか殺しあいじゃ、ぼけぇ!
そんな心の声が聞こえてきそうな彼女達の勢いに「俺、嫌われてる?」などと考えてしまい、少しうなだれるタケルだったが、とにかく恐怖の追いかけっこは終わったのだ。
のんびりと歩き出す。
といっても、既にここは街の中。迷走癖のある彼が家に帰れるはずがない、と思われるかもしれない。だが、彼もそこまで迂闊な人間ではない。
「ふっふっふ」
――いつまでも迷子になる俺と思うな。
そんな声が聞こえてきそうなほどに、薄ら笑いを浮かべて、ポケットから折りたたまれた紙を取り出した。当然、道に迷わないように用意された地図だ。
路地裏で一人、薄気味悪い笑い声を漏らす彼は、誰が見ても立派な変態に違いなかっただろう。事実、たまたまタケルを見つけた通行人たちは、物凄い勢いでその場から離れていくのだから。
だが――
「これさえあれば簡単に家に帰れる……ふっ――」
――ブツブツと独り言にいそしむ、そんな変態と呼ぶにふさわしい彼に声をかける奇特な人間がいた。
「……あれ、おにいちゃん?」
「……?」
一人で悦に入っていたタケルだったが、どことなく聞き覚えのある幼い声を耳にして現実に引き戻された。
目を向けて、だがすぐには思い出せなかったのか一瞬だけ首をかしげてみせる。
「……」
短いツインテールで髪をまとめて活発そうで可愛らしい5、6歳の少女だ。どこかで見たことのある顔。神楽坂 明日菜を幼く、ほっこりとさせたような表情。
確かに見覚えがあった。
「……マユか?」
「うん!」
大きく頷き、笑顔に花を咲かせた。
以前、迷子になっていたこの少女をたまたま居合わせたタケルが母親に引き渡したという間柄だ。
「このあいだはどうもありがとう!」
「気にするな……それよりお母さんはいないのか?」
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