第19話「惚れ薬」
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始まりは太陽が昇っていたのに、気付けば太陽は潜み、月が天に現れていた。雲に身を隠しつつ、時折思い出しかのようにその顔を覗かせている。
月明かりが夜の学校を照らし出す。
向かいあう集団が、光を受けてその姿をさらす。一人の男が女に飛び掛ろうとしていた。それを遮るように三人の女と一人の少年が立ちはだかる。心なしか全員ぐったりとしている。
静かな時が流れる。聞こえるのは各々の疲れ果てた息遣いのみ。
緊張が高まり、そしてはじけようとしたそのとき――
「――あれ?」
飛び掛かろとしたタケルが、いきなり首をかしげた。
「た……タケルさん?」
ネギの恐る恐る搾り出された声に、
「……?」
本当に不思議そうに首をめぐらせている。
遂に正気に戻ったらしい。一気に弛緩した空気が流れ出し、誰もがホッと息をついた。
「?」
未だに良くわからず首をかしげているタケルに、ネギが惚れ薬の説明をする。
「……俺が、か」
説明を聞き終え、ヨロヨロと膝をついた。
薬のせいで楓への気持ちが膨れ上がり、そしてまた勝手にしぼんだのだが、その間の正気はあったらしい。先ほどまでの自分の行動を全て覚えているのがまた彼にとって、自責の念をさらに大きくさせていた。
「すまなかった」
土下座しそうな勢いで頭を下げたタケルに、真っ先に笑ったのは楓だった。
「いや、まあ楽しかったでござる」
その顔は微かに赤らみ、まるで優しく美しく咲いた花のようで。
「……っ」
笑顔で手を差し出す楓に、なぜかタケルが顔を俯かせた。
「……どうかしたでござるか?」
「……す」
「……す?」
「スイマセンでした〜〜〜〜〜!!」
そのまま物凄い勢いで離れていくタケルの姿を、誰もが呆然と見送ったのだった。
翌日。
学校で迷惑をかけた彼女達に、彼が再度激しく土下座をしたのはお約束だろう。
ちなみに。
「にしてもあのタケル殿ですら陥れるとは、惚れ薬とは厄介なものでござるなぁ」
のほほんと呟いた楓に、ネギが少し気まずそうに、恥ずかしそうに、だが楽しそうに耳打ちを。
「実は誰にも言ってなかったんですけど」
「フム?」
「あれって気になる人にしか効かないようになってるんですよ?」
「……へ?」
そそくさとネギが離れていく。
半ば石化したような楓がいたとか、いなかったとか。
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