彼は知らぬ間に求められる
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少し真面目な顔で私に話す。もう元の話はできそうになかったので渋々ではあるが彼に了解の意を示す。
「……わかりました。たださっきのはよくないよ秋斗さん」
今はまだ諦めよう。この人も優しい人だから何か考えがあるんだろう。
私ももっとよく考えてみよう。秋斗さんの事もちゃんと知っていこう。
「秋斗さん……私とも少しお話しましょうか」
口は笑ってるのに目が笑ってない黒い気を纏った朱里ちゃんが秋斗さんにゆっくりと詰め寄ると、
「……に、逃げるに限るな。ちょっと雛里連れて行くぞ」
そう言って秋斗さんを睨んでいた雛里ちゃんを抱えて急いで出て行ってしまった。
今度は変な空気になってしまっている。
「お兄ちゃんはホントすけべなのだ」
鈴々ちゃんの楽しそうな声が上がり、それを皮切りに朱里ちゃんと愛紗ちゃんはそれぞれ愚痴を呟きだした。
そんな中、私はこれからどう仲良くなっていこうかと思考を巡らせるのだった。
私は今怒っている。あの場から逃げるためとはいえあんな事を言うなんて。そんな人ではないのは分かっているがそれでももっと何か違う方法があったはずだ。
「すまない雛里、連れ出してしまって」
「……」
謝ると同時に降ろされて秋斗さんと目が合うも、一瞬だけですぐに逸らされた。
その目は少し悲しそうで、他にも何か昏い感情が渦巻いているのが見て取れた。そんな目で見られたら責めることもできない。
そのまま歩き出した彼の後を追いかけて、並んで歩いていると一つの問いかけが放たれた。
「少しだけでも話したほうがよかったんだろうか」
「わかりません。でも私はまだ話すべきじゃないと思います」
戦いの最中に私達から話すことじゃないから。話すにしても終わってから様子を見て少しずつ話すべきだろう。
「虎牢関も本拠地洛陽も残ってるしなぁ。ここで不和を出すわけにはいかないし」
きっと秋斗さんも同じ考えであの場から逃げた。この話をさわりだけでもしてしまえば皆の結束など露と消えてしまい、その不和は軍全体を脅かす猛毒となり得る。
弱小である私達はどうしても無茶を押し付けられやすく、戦場にて厳しい場所に配置されると不和を抱えたままでは誰かが欠けてしまうという致命的な損害が予想された。
思考に潜っていたが彼の方をちらと覗き見ると落ち着いた空気でただ歩いていた。私も倣って戦の思考を止めてただ歩くことにした。
涼やかな風が頬を撫で、二つに括った髪の先端が歩くのに合わせて揺れる。
私は彼とのこういう時間が割と好きだ。
先程、一瞬だけ見えた秋斗さんの瞳が思い出されて少し胸が苦しくなった。
きっとこの人はまた何かを背負った。
でも私は聞けない。聞いちゃだめだ。
自分で答えがでている時は話さない人だから。
私は
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