彼は知らぬ間に求められる
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お待たせしました、と雛里ちゃんが皆の分のお茶を机の上に並べ、一様に口を潤して一息つく。
「……で、話とは?」
「へっ!? えーと……あはは」
彼の問いかけに何をどう話していいか分からなくて苦笑が漏れ出る。そんな私に対して秋斗さんが少し呆れながら、
「桃香らしいな。俺から切り出そうか。どこか距離を感じるから理由を聞いてみたいってとこか?」
考えていた事を言い当ててきた。
「……うん。私は秋斗さんともっと仲良くなりたいから」
ぐっと心を強く持って本心を話す。正直に言った言葉はきっと届くはず。
「これ以上仲良くってのは……なんか告白されたみたいだな」
真剣な言葉にいつもみたいに茶化して来る。この人にはここで引いちゃダメだ。
「茶化さないで話して欲しいです……私が何かしましたか?」
構わずさらに切り込むと、愛紗ちゃんが横で驚いていた。その隣を見ると雛里ちゃんが悲しそうに顔を伏せる。どうして悲しそうに見えたんだろうか。
「……本当に強かなことだ。桃香は何もしちゃいないよ。ただ俺は少し人に対して距離をおいてしまう性質なんでな」
この人はきっと誤魔化そうとしている。また曖昧にぼかす気なのではないだろうか。
「桃香、お前は本当に綺麗な心を持っている。だが踏み込みすぎるのはいけない。人によっては打ち解けるために時間が掛かる場合もあるんだ」
「でも、私たちは仲間で――」
「仲間だからとすべてを共有することはできないよ。人は皆それぞれ違う」
柔らかいが拒絶の言葉。きっぱりと言い切った秋斗さんを見て愛紗ちゃんが真剣な顔で口を開くが、
「秋斗殿――」
「愛紗、それ以上は何も言うな」
そちらを見もせずに放たれた言葉で止められる。朱里ちゃんと雛里ちゃんは二人の様子に少し怯えていた。
「お兄ちゃんは難しい事考えすぎなのだ」
突如、ずっと黙っていた鈴々ちゃんが軽く言った。にゃははと笑いかけて空気が少し緩み、微笑んだ秋斗さんが続いて口を開く。
「そうだな鈴々。だけどな……俺が毎日愛紗の下着の色を聞くようなもんなんだぞ。ところで今日は何色なんだ?」
瞬間、時間が止まったかに思えた。間をおいて顔を赤くした愛紗ちゃんの平手が飛び、秋斗さんは椅子を倒して吹き飛んでしまった。
「なな、何を言っているのです秋斗殿! 冗談でもそのような事は――」
そうして真剣な空気はどこへやら、愛紗ちゃんのお説教が始まってしまった。
この人はずるい。こうやって空気を変えて誤魔化してしまう。
「すまない愛紗! ほんの軽い冗談なんだ! 許してくれ!」
秋斗さんが必死に謝るとまだわなわなと震えているが愛紗ちゃんは仕方ないですねと呟いてから口を噤み、いつもの私たちに戻ったと感じた。
「桃香、いつか話す。その時まで待ってくれ。俺は臆病なんだ」
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