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乱世の確率事象改変
彼は知らぬ間に求められる
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「おかえりなさい秋斗さん。お怪我はありませんでしたか!?」
 秋斗さんが本陣天幕に帰ってくると同時に雛里ちゃんが近寄って不安気に尋ねた。
「大事ないよ。心配かけたか?」
「……怪我がなくてよかったです」
 秋斗さんの返答に雛里ちゃんはほっと安堵の吐息を漏らして柔らかい微笑みを浮かべた。その事から彼女がどれだけ秋斗さんの事を想っているのかが伺えて、自然と私も笑みが零れた。
「おかえりなさい」
「おかえりなさい、秋斗殿」
「お兄ちゃん、おかえりなのだ!」
 皆も笑顔を携え、口々に出迎えの挨拶をして、秋斗さんも笑顔でただいまと答え私のほうに向いた。
「おかえりなさい。無事でよかった」
「ただいま桃香。今回の戦の報告をするよ」
 改まってどうしたんだろうか。伝令さんから今回の戦の報告は全て聞いているというのに。
「連合のシ水関攻略作戦は成功。敵将華雄は俺達が討ち取った。徐晃隊の被害も軽微だ。大きな手柄を得て初戦は終わった、ここでお前は連合の思惑をどう見る?」
 どういうことだろう。連合の人たちは皆、民を救うために立ち上がって――
「まだ連合の思惑は曖昧なまま、正義の所在は不明だがお前の意見が聞きたいんだ」
 張コウさんと田豊さんの言葉が甦り、少し胸のあたりがむかむかした。
「私は……まだ判断がつかない、ならはっきりするまで戦いたい」
「……了解。だが相応の覚悟はしておけよ。」
 この人の言う事はたまによくわからない。明確に言葉を紡がずぼかして言うことがある。そんな彼の返答に皆も何か考えているようだが誰も口を挟んでは来なかった。
「それはどういう――」
「桃香が考えて出した答えが全てになるだろう。すまないが俺は少し出る。今回の戦でも世話になったし白蓮の所にも行っておきたいんだ」
 またこの人は一人で行ってしまう。
 正直、前から彼の事が少し苦手だった。どこか私は、いや私達は避けられている。話しているときも心に一定の距離を保たれている気がする。どうしてこの人とは仲良くなれないんだろう。
「……秋斗さん、少しお話しませんか?」
 私がそう言うと皆が驚いた。彼がどこかへ行くのを止める事など今まで一度もしなかったのだから当然かもしれない。
 秋斗さんは背を向けて去ろうとしていたがその場で立ち止まる。
 この人が距離を保つ理由が知りたい。もしかしたら私が何かしているのかもしれない。
 静寂が場を包んでいたが、
「わかった」
 一つ返事の後、秋斗さんは振り向いて元の位置に戻ってくれた。
「お、お茶の用意をしましゅ!」
 それを見て雛里ちゃんが慌てて動き出し、朱里ちゃんと愛紗ちゃんが皆の椅子を用意してくれた。
 皆が座ってお茶が出るまで待っていたが――空気がひりつき、沈黙が痛く感じる。これまでこんな事は無かったのに。

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