幕間:仁ノ助、酒乱と太刀を交える事
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で我が陣営を歩く事は許しません」
「うっそ・・・全然気づかなかったぞ」
「そりゃ仁さん、戦うのに必死だったからな。あんなに張り切った姿なんて初めて見たぜ」
仁ノ助は反応に困ったように腰に手を当ててわざと息を漏らす。曹操はくすくすと少女らしさのある微笑みーーーそれでも威厳を失わせぬ覇者としての高貴さを感じさせたーーーを浮かべると、馬首を返して自陣へと戻っていく。新たな才覚の持ち主を手に入れた事で、彼女の背中は喜ばしげに膨らんでいるように見えた。曹仁と曹洪も場から闘気が消えたのを知ると、武器を下ろして去って行った。
皆が去った後、仁ノ助はすんすんと鼻を鳴らしてみるが、己に移ったという酒気を確認する事は出来なかった。その彼の隣に、まさにむわっとした靄のような酒気を纏った蒋済が立つ。彼の男らしい精悍な顔は晴れやかな表情をしていた。
「一杯喰わされたみたいだな。あんた、曹操様の部下か?」
「ああ、そうだよ。わざわざ堂々と門戸を叩くくらいだからな、弱いわけが無いと思って試させてもらった。不愉快だったか?」
「若い奴にやられるのはむかつくが、あんたが強いなら別にいい。俺もこれからはあんたと同じ陣営だ。宜しく頼むぜ、旦那」
「宜しく・・・おい、旦那って?」
「まぁいいじゃないの。俺とまともに戦ってくれて、しかも酔いを醒まさせてくれたのってあんたが初めてだしな。ああ、勿論曹操様を裏切るつもりなんてないぜ?主は主、旦那は旦那だ。以後よろしく頼むわ」
「・・・勝手にしろ。あと酒癖は直しておけ」
「それは絶対に無理だね」
そう言って蒋済は何時の間に回収していたのか、放り捨てた瓢箪をぐびりと煽った。しかし中身はほとんど無くなっていたようであり、数適だけが口元から毀れるのを見ると、彼は不満げに瓢箪を叩いた末にげぷりと喉を鳴らした。落ち着いた状態でしかも間近で感じるときついものがあり、仁ノ助は辟易したように鼻の前で手を振った。
かくして曹孟徳の陣営に、新たなる武の一員が加わった。何事も考え通りとはいかぬこの世界、自軍だけがうまくいっているような感覚に、仁ノ助は腑に落ちないものを抱く。だがそれはただの余計な心配というもの。うまくいっているならば、陣に帰還した際、荀イクから酒気に対する有らん限りの罵詈罵倒を受けぬ筈であったからだ。微苦笑を漏らしながら錘琳が酒気を落とすのを助けてくれた事に、仁ノ助は感謝の念を抱いた。
なお、皇甫嵩による治安維持は苛烈なものであり、街に忍び込んでいた東阿の賊人や無法者はあらかた晒し首になったことを追記しておく。
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