幕間:仁ノ助、酒乱と太刀を交える事
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だ。せいぜいそれに似合うくらい、華やかな演武をして見せろよ。大酒飲みの無頼漢め!」
「ほざけっ!」
二人は同時に駆け出して、同時に得物を振るう。鋭い槍の一撃を豪快な剣の一振りが払いのける。巧みに懐へ飛び込んで斬らんとした仁ノ助であったが、横合いから襲いかかる十文字槍の戈の部分に、前進を躊躇わざるを得なくなる。得物のリーチの長さは如何ともしがたいもので、蒋済はそれを十二分に生かせる男であった。
腰を支点とした振り回しを牽制として、柄を短く持って迫っていく。初動が読みづらいフェイントを交えた突きでもって軽率な行動ができぬよう抑え付ける。叢から飛び出す蛇のような油断ならぬそれは熱い火花を散らすだけであるが、仁ノ助の警戒心をぐぐっと募らせる効果があった。充分に相手の意識がフェイントに集中したのを見計らって、蒋済は再び牽制の突きを見舞うと、今度はそれに続けて箒を払うように石突で殴りつける。間一髪、仁ノ助はそれを避けたが蒋済の勢いは止まらない。得意とする連続突きからの足払いを見舞い、それが全て防がれたと知ると身体を軸とした上からの回転切りを馳走する。仁ノ助を半身で何とかこれを避けて、天を裂くような斬り上げで蒋済を威圧するように遠ざけた。
仁ノ助の攻撃が猛威を振るっていった。剣道三倍段などという理屈を無視するかのようだ。彼には無く自分にはある鎧を利用し、一方で槍のリーチを生かされたら負けると理解しているのだろう、至近距離での戦いを挑んでいく。
「おおっ!」
槍には無い刃全体を使った重々しい上段斬りから、嫌がらせ程度の足蹴などを交えて肉体的に相手を追い込んでいく。仁ノ助の得意とする所は肉弾戦であり、それも小細工を弄しない筋肉馬鹿のような一辺倒の猛撃であった。力だけではどうにもならぬ強者達には及ばぬが、自らと拮抗するほどの相手であれば、力押しこそが最良の手法であると彼は理解して、それを行動に起こしていた。
突風のような鉄の唸りが二人の鼓膜を震わせた。大剣を扱っているとは思えぬ程、俊敏で、それでいて力負けしない斬撃が放たれていく。狙われる部位のほとんどは相手の腹部と脚部であった。蒋済は柄の真ん中をもって双手剣のように槍を扱い、これを防いでいたが腕を伝う衝撃に顔を歪ませている。返す刃で反撃を狙わんとしたい所であったが、それに呼応するかの如く仁ノ助は縦からの鋭い一振りで躰を両断せんと試みるので、蒋済は相手に隙が出来るまで防御に徹するほか無かった。
きんきんと、鉄が交わる響きが青空に木霊する。互いに得手とする攻め手を生かさんとすべく、戦いの有利を奪取せんと攻防は展開される。一対一の戦いがどうであるかを知っている者同士の戦いは、拭い難き隙を見せる度に主導権が移り変わり、而して一向に決定打が打てぬままであった。一歩深く切り込まねば打ち勝てぬの
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