幕間:仁ノ助、酒乱と太刀を交える事
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陣営の外へと向かう。話に精密さを求めるとすれば、男は待たされるというよりも乱暴すぎて門前払いを食らったというのが正しいだろう。念の為愛剣を持って来たが、事によると言葉通りの世話になるかもしれない。
その男は陣営から五町(約545メートル)ほど離れた、晴れ渡る空の下の涼しげな空気が漂っている、柳の木の陰に座り込んでいた。報告通り、荒くれ者と称するに相応しいほどの外見だ。ちょびっと生やされた顎髭に伸び放題の頭髪。汚れがべっとりとついたままの衣服に、鬱陶しいまでの酒の臭い。極めつけは地面に置かれた鍔の部分に赤染の手拭が撒き付けられた十文字槍であり、これだけは大切にされているのだろう、刃は確りと鞘に収まっていた。
男は近付いてくる人物を見ると、不満そうに喉をひっくと鳴らした。男から十間(約18メートル)ほどの場所で足を止め、仁ノ助は話しかける。
「あんたが件の酒飲みか。本当に凄い匂いだな。天下広しといえどもここまで酒臭いやつはいないぞ」
「・・・曹操殿は女だって噂だぜ。お前さん、一体どこのどちら様だ?」
「漢王朝に奉仕する辰野仁ノ助という者だ。曹操殿に代わってどんな奴が来たのか調べに来た。これでも騎兵二百を従える立派な将軍様だぞ?お前の言葉には、どうにも上の人間に対する敬意が感じられんな」
「はっ!この前会った奴がそうだっただけにな、疑り深くなっているのさ。最終的には俺が討ち果たしたんだが、従える兵数は結構なもんだってのに、中身は小童もいいところだった。民を守る立場だというのに、賊と一緒に街を略奪したんだからな」
「・・・討たれて然るべき男のようだ。その悪逆者の名前は、もしかしたら王度とかいうか?」
瓢箪をぐいっとやろうとした手を止めて、男はぴくりと眉を動かす。彼がまたおもむろに酒を煽り始めるのを見ながら、仁ノ助はにたりとした笑みを浮かべて続けた。
「漢室の草の網を油断して見ていたか?近隣の街で何が起こったのかなど、手に取るように分かるぞ。もちろん、その戦の中で活躍した選りすぐりの勇士の事もな」
「・・・そいつの名前は知っているかい?」
「いんや、残念ながら。俺達が知っているのは、そいつが扱う十文字槍は、反逆者の身体を切り刻み、天高くに首を飛ばしたという事くらいだ。だから見間違える事がないんだよ、その十文字槍を担いでやってきたお前の事はな」
男はふんと鼻を鳴らしながら、不敵な笑みを漏らした。
仁ノ助は一つの確信じみた推測を抱く。自分が相手にしている手合というのはどうも話し合いよりも戦いを望んでいるように感じる。そうやって己の実力を示したいという根っからの武の心を持っているのではなかろうか。もしそうだとしたら、仁ノ助にとっては願ったり叶ったりの状況である。最近の鍛錬では段々と仲間の癖や感覚というのが分かってきて、試合
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