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或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
幕間2 弓月兄妹と学ぶ〈帝国〉史
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言うのならば皇紀三百六十四年に始まった宗教純化運動が発端だ」

「・・・・・・厭な響きですね。宗教純化運動って」
 〈皇国〉の一般的な価値観において宗教の政治的な動きは嫌悪されることが多い。
特に皇都や地方の都市においてはその傾向が強い。
「〈皇国〉は幸いにも宗教の先鋭化はそれほど酷くないからな、それこそ諸将時代の帯念一揆位だ」
 諸将時代に農村地帯の一部が寺社の扇動を受け、搾取の象徴として将家やその御用商人を追い出し、自治体制を作り出そうとした事があった。当時の僧侶は知識階級であり、同時に農村においては庄屋たちと並び、慣習法の裁定者でもあった。
だが、彼らは一揆の軍勢と結びつき、独自の武装勢力を作り出そうとしたのであった。
 結局は内政の行き詰まりと将家の鎮圧によって叩き潰されたのであるが、略奪にあった商人や将家達にとってはある種の衝撃であった。特に現在まで伝統的に残っている農村に自治権を与える五将家のやり方はこの衝撃的な武装勢力との戦いを糧としたものであると言われている。

「だが、この宗教純化運動も最初は決して悪いものではなかった。
そもそもの発端は“信仰帝”と呼ばれるウィリテリウス二世の治世に起きた――皮肉な事に、な」

「悪い事ではなかった――ですか?」
 眉を顰めた碧に葵は頷いてみせた。
「あぁ、なぜならば当時、〈帝国〉国教として独立した権力を持っていた拝石教の組織は深刻な腐敗・綱紀の紊乱によって民心が離れつつあったからだ。
学問僧であったジュガヴィリヌスの主導で教団上層部の体制刷新、腐敗の是正を掲げていた――が、五年後には失脚し、破門された。
教団の腐敗は糾される事は殆どなく、民衆の不満は高まって行った」

「あぁ・・・・・・そこで導術士が出てくるわけですね」
碧は痛ましそうに顔を曇らせた。彼女にとっても導術士は日常の者達である。

「あぁ、その通りだ。〈帝国〉における導術士は各部族の中で狩猟前の占術や離れた親族の無事を知るなどと導術を利用した“呪術”によって部族社会の中で一種の特権的な地位を得ていた。
〈帝国〉もそもそもは騎馬民族の〈聯合帝国〉が母体であり、西方諸侯領の下層・中層階級の大半は〈帝国〉本領の影響を受けていても一般住民の大半は異民族達だ。
こうした土着の呪術師は結構な数がおり、五百年を経た社会の中でも相応の位置づけに居た。不満を持った民衆は――とくに〈帝国〉本領からの移民達を中心とした拝石教を奉じている下層民の一部は、導術士達を異端者として駆り立てはじめた」

「――殺したの?」

「〈帝国〉を、そしてこの手の行為を擁護するわけではないが、
導術士に対する不信からくる虐殺は〈皇国〉の把握する(大協約)世界の国ではどこでも引き起こされている。
この〈皇国〉だって五百年代初頭
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