デュエルペット☆ピース! 第4話「SIN」(中編)
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少年が眼を開けると、夜風の吹き抜ける公園であった。暴虐の現場にいたはずが、移り変わる瞬間も感じないまま、ふと気づくと周囲の光景が様変わりしていたのだ。その異様な感覚に混乱しつつも、委員長は周囲に目を配る。
(アズの記憶なら、アズがどこかに登場してくるはず……)
少年の予想は当たっていた。公園の隅のベンチに、母と娘が腰かけている。幼いアズの額と口元には血の跡が残されており、最初に殴打を受けた頬が痛々しく腫れていた。どうやら、先ほどのシーンの続きのようだ。アパートの部屋から逃げ出した母子は、この公園で休息していたものらしい。
『アズ、大丈夫?』
『はい、もう、痛くないです』
それが偽りであることは明白だった。蹴られた横腹が疼いたらしく、「もう」から先の声が震え、目の端から涙がこぼれた。かといって、母にその嘘を咎めることができようか。母は一瞬辛そうに顔を曇らせ、それでも娘の意図を尊重して笑顔を作り、指で流れた涙をぬぐい取る。それから、自分の膝の上にアズを乗せて、腹部に触れないよう注意しながら、後ろから優しく抱きしめた。
『えへ……お母さん、あったかいです』
『そうね……アズもあったかいわ』
アズから笑顔がこぼれる。その笑顔は、委員長の記憶にある現在の彼女のそれと、ぴったりと重なるものだった。
『お母さん……いつ、おうちに、帰る……ですか?』
『もう少ししたら、ね。もう少しだけ、お母さんとお話しして? それより、アズ、敬語なんてどこで覚えたの? お利口さんね』
『けい、ご? けいごってなんですか?』
『あら、知らないで使ってたの? 「です」とか「ます」が最後にくっつくの。丁寧な言葉なのよ』
『あの、お父さんが……こういう風に話せって。普通に話すと……怒られて……だから、ニュースを見て、まねしてみたんです。そしたらちょっとだけ、ほめてくれて』
(それを、高校生になった今でも―――?)
母の顔が、再び曇った。
『あのね、アズ。そういう話し方は、ホントは大人になってからするものなの。だから、お父さんの前ではそれでいいけど……お母さんしかいないときは、普通でいいのよ?』
『そうなんですか? じゃあ、そうします……あれ……えっと、おかしいです……あれ?』
アズが戸惑って口ごもり、時折言葉にならない言葉を漏らしながら、敬語での発話を続ける。委員長が、童女の困惑の正体に思い当った。
(自分でも戻せなくなっているのか? まさか、それが今も続いて―――?)
『えっと……どうしたら、いいんですか? 普通でいいのに、普通って、どうやって話したらいいんです……か』
『アズ、無理しないでいいの。言葉なんてどうでもいいのよ。自然に出てくる言葉で話せばいいの。お母さん、ど
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