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剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第四話 決断
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は黙ったままジッとアンリエッタを見つめていた。
 顔に熱がこもるのを自覚しながらアンリエッタは顔を横に向けたまま顔を上げた。
 士郎に顔を見られないように。
 アンリエッタは明後日の方向を見上げながら、ポツリと呟く。

「そう言えばですが、ガリアとの国境にいる兵たちを交代させる時期が三日後に迫りましたが、その時期になるとどうしても警戒が緩んでしまうので何か方法を考えなければいけませんね」

 そう口にしたアンリエッタは、士郎から顔を背けたままそのまま背中を向け窓に向かって歩いていく。

「……最近何かと物騒です。シロウさんもお身体にお気をつけてください」
「……ありがとうアンリエッタ」

 士郎は窓の外を見上げるアンリエッタに向け頭を深く下げると、そのまま執務室の部屋を出て行った。パタンと乾いた音を立てドアが閉まると、アンリエッタは窓枠にその白く細い指先を置くと、赤く染まりだした空を見上げながら目を細めた。

「ありがとう……じゃないですよ、もうっ」

 ぷぅっと、僅かに頬を膨らませながら文句を口にしたアンリエッタだが、その目尻は明らかに下がっていた。
 窓枠に半身を預けるように寄りかかったアンリエッタは、窓に耳を当てながら空を仰ぎ見る。

 不安はある。
 気を緩めれば去っていった彼のことを追いかけてしまいそうな自分がいる。
 彼のことだ。
 きっと自分のことなど省みることなく救おうとするのだろう。
 わたくしには何もできない。
 ただ……待つことしか。
 でも……それでもいい。
 不安はある……不満も、恐怖も、苛立ちも……。
 だけど……待てる。
 彼……シロウさんのことを待っていられる。
 それはきっと、彼の言葉を聞いたおかげ。
 彼のことを……ほんの少しだけでも……わかったから。
 わたくしは……待てる。
 彼を……信じて……。

「無事に……帰ってきてください」

 小さく口の端から漏れた声は、寂しげで不安げで、そして濡れていた。
 そっと目を閉じたアンリエッタの脳裏に、先程の士郎の姿が浮かぶ。



『俺が目指す『正義の味方』、か……全てを救うなんてたいそうなことを言ったが、実のところたった一つだけだ……俺の救いたい……守りたいものは…………それは、な―――』



「……じゃないと、あなたのなりたい『正義の味方』にはなれませんよ」

 濡れた声から溢れたかのように、頬に一雫の涙が流れた。
 





「きゅいきゅいきゅいっ!? 帰ってきたのね!」
「っおい」

 ドアを開けた瞬間、甲高い声を上げながら一人の青髪の女性が飛び跳ねながら士郎に駆け寄ってきたかと思うと一気に飛びかかってきた。

「きゅいきゅい! どうだったのねっ?!
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