第十章 イーヴァルディの勇者
第四話 決断
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顔を上げたアンリエッタはピクリとも動かない。睨みつけるように強い視線で士郎を見つめたまま、アンリエッタは静かに大きく息を吸う。
「『正義』と一言で言っても、人によってそれぞれ違います。例えばですが、『トリステインの女王としてのわたくし』にとっての『正義』とは、国家の存続です。極端な事を言えば、他の国を滅ぼさなければトリステインが滅んでしまうのなら、わたくしはどんな手段でも取ると思います。場合によれば、どれだけ非人道的なことでも、必要とあれば行うかもしれません」
「…………」
スッと目を細めたまま黙り込む士郎に、アンリエッタは問いかける。
「『正義の味方』のあなたは、そんなわたくしの『正義』の味方になってくれるのですか?」
「…………」
「それとも、わたくしの『正義』の敵になりますか?」
「…………」
問いに答えない士郎に、アンリエッタは特に反応しない。
ただ、少し前のめりになっていた身体を伸ばし、目を閉じ、ゆっくりと開くと、アンリエッタは士郎の目を見つめる。
互いに目は逸らさない。
士郎の目に、揺らぎや戸惑いは見えない。
「……あなたは以前、『全てを救う正義の味方』と言っていましたが、あなたの言う『救う』とは何をもって『救った』と言えるのですか」
「………………」
「『救い』とは……他人によって決められるものではありません。確かに、あの時わたくしはあなたに救われました。しかし、何かが違えばわたくしは『救い』とは思わなかったかもしれません。そうなれば、あなたはわたくしを救ったことにはなりません……あなたにとっての善意の押し付けただけ……。シロウさん……人は……誰一人として同じ者はいません。……あなたは……何をもって『救い』と言うのですか?」
「……………………」
何も答えない士郎に、アンリエッタは一歩近付く。
手を伸ばせば互いの身体に触れられる距離。
無言の士郎。
しかし、向けられる視線からは逃げることはない。
「シロウさん―――」
一瞬だけ噛み締められた唇の隙間から漏れた微かに掠れた声は、しかし意外なほど大きく執務室の部屋に響き。
「―――あなたの目指す『救い』……『正義の味方』とは……一体どんなものなのですか」
アンリエッタの二度目の問が、士郎に向け放たれた。
「……許可をすることはできません。勿論協力もです」
顔を伏せたままアンリエッタ言葉を紡ぐ。
協力を得られないという事実に対し、しかし士郎の顔に苦しげなもの色はない。
「ですので、何処かで誰かが捕まったとしてもわたくしは何もしませんし何も言いません」
「……」
アンリエッタは顔を伏せたままチラリと横目で士郎を見る。
士郎
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