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剣の丘に花は咲く 
第十章 イーヴァルディの勇者
第四話 決断
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「許可することはできません」

 強く、その鋭い目で自分を見つめる男から視線を逸らすことなく、わたくしはゆっくりと、しかしハッキリと男に対する返事を口にする。
 と、同時に内心安堵の息を吐く。

 声……震えていませんでしたわよ、ね。

 たった一言返事を返すだけで、まるで大魔法を使用したかのような疲労を全身に感じてしまっていた。
 涼しい顔をしていられるのは、これまでに経験してきた修羅場のおかげであるだろうが。ただし、この今感じている緊張感や圧迫感は今まで経験してきた修羅場―――他国の王たちや貴族たちとのやり取りとは全く別種のものであるゆえ、それがどれだけ力になっているのかは分からない。
 特に違うのは別に他国の王や貴族たちに嫌われたり憎まれたりしても全く痛痒は感じないが、このいま自分を見つめる男―――衛宮士郎に嫌われたり憎まれたりするのは絶対に嫌だということである。
 アンリエッタは、自分を見る士郎の瞳に苛立ちや怒り等の負の感情を見られないことに、再度内心安堵の息を吐く。
 すると、まるでタイミングを測ったかのように士郎が口を開いた。

「……どうしても、か?」

 士郎の声は、何時もの通り落ち着いたものであり、自分の願いを断られたことに対する影響は全く感じられない。
 自分に対し乞い願う言葉の中にも、同じく断られたことに対し含むものは感じられない。
 苛立ちも、怒りも、落胆も、悲しみも……そして、必死さも。
 僅かに眉がひそまる。
 
 ? 随分と余裕―――いえ、これは違いますね。

 真剣な硬い顔で自分を見つめる士郎の顔には、余裕等そんな気配は全くない。だからこそ、アンリエッタは内心で溜め息を吐く。
 三度目の溜め息は、残念ながら安堵によるものではなかった。

「ええ、どうしても許可することはできません。そんなことあなたも分かっているはずです。あなたが助けようとしている彼女はトリステインではなくガリアの者。それもこの資料(・・・・)とあなたの言葉を信じれば彼女はガリアのシュヴァリエ(騎士)であり更に今は犯罪者として扱われている者です。そのような者を例えどんな理由があろうともトリステインの騎士であるあなたが連れ出せばどうなるか……分からないはずがないです」
「そう……か、なら、仕方な―――」

 アンリエッタの言葉に何ら反抗することなく、士郎は僅かに目を細めると小さく顎を引いて頷いて見せると、肩に羽織ったマントに手を伸ばそうとした瞬間―――。

「と、言いたいところですが、そう言って大人しく諦めるようなあなたではないですからね」

 はぁ……と溜め息を吐くと同時にアンリエッタは諦めの言葉を口にした。

「アンリエッタ?」
「あなたなら騎士の位を返上し、一人ガリアにまで行きそうです
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