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デュエルペット☆ピース!
デュエルペット☆ピース! 第2話 「聖職」(前編)
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っていないかのようで、中枢神経と独立してただ小刻みに震えるのみ。それを認識すると、両手の指先もほぼ同じ状態であることに気付いた。こちらも、両手首までしか血流の感覚がない。冬でもないのに、長時間寒気に当てられてかじかんでいるかのように。しかし、指の震えを見て確信したのは、自分の中に残留し続ける恐怖。極めつけに、深奥の周辺に残る不快な指の感触と、ホームを去る際に見せたあの男のいびつにゆがんだ口元が脳裏に並列されて、思わずアズは固く瞳を閉じた。目の端から涙がにじむ。
 さらに次の電車がホームに到着し、扉が開く。内部の状況は依然同じ、それどころかスーツ姿が増えているような気さえして、アズの顔が一気に青ざめた。なんとか顔を伏せたが、もう震えは止まらない。指先、脚どころか、身体全体が発作のような激しく細かい揺れに襲われる。
 ホームから列車が出ていく。膝小僧の傷から、さらに一筋、血が流れる。そのこと自体は循環器系が健全であることを証明しているのだが、その程度の事実でアズの恐怖が消えるわけもなかった。
 結局、ラッシュ・アワーが終了して乗客がまばらになって、ようやくアズは列車に乗り込むことができた。膝から流れる血は既に止まり、血小板が硬化し赤黒く変色している。時刻は、もうすぐ10時になろうかというほど。完全な遅刻であった。


                     *     *     *


 県立白鳩高校は、白鳩駅から歩いて10分とかからない場所にある。その10分足らずの道を歩くのに、アズは1時間以上もかかったような気がした。なにしろ、身体に震えと恐怖と、昨日までは決定的に存在していなかった類の違和感が残っているのだ。通常通りの歩き方を身体が忘れてしまったようで、常に足を引きずっているような感覚さえあった。
 校門をくぐり、ひとまず職員室へ向かうと、中には女性の副校長一人(心の内で胸をなでおろすアズ)。彼女のクラス、ファースト・プラム(1年某組という類のクラス名でないのは、都会だからなのだろうか)の教室へ向かうよう指示を受けた。担任が今ちょうど授業中らしい。二限の授業中の廊下を、一人歩く。あちらこちらの教室から、講義中の教師の声が聞こえてくる。久しぶりの学校生活、日常の姿であったが、どうにもこの光景と自分との間に距離が開いてしまったような気がする。昨日は白の竜と戦い、今朝は雄の欲望に晒されて恐怖に駆られていた自分が、どうしてこのありふれた空間の中に、すんなり溶け込んでいけるというのだろうか。ケガレタジブン―――と、そこまで連想して、アズはかぶりを振ってその思考を追い払った。
 校舎2階の端、「1st Plum」と書かれたプレートが上部にせり出している部屋の前で、アズは足を止めた。深呼吸を一つ。どんな理由があろうと、教室空間から逃げるわけには
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