彼は一人怨嗟を受ける
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倒れなかった。
そのまま前進し、ずぶずぶと胸をより深く突き刺されながら俺に近付き、胸倉を掴みあげ睨みつけられる。その瞳は深い憎しみに染まっていた。
すぐに猛将は天を仰ぎ魂の叫びをあげた。
「我は華雄! 月様の一の臣なり! その誇りを守り、ここで逝く!」
すっと顔を下げてこちらを向いた華雄は不敵に笑っていた。
「さらばだ偽善者徐晃。未来永劫呪われろ。乱世のハザマでのたれ死ね」
そう言ってから盛大に血を吹き出し、不敵な笑みを携えたままこと切れた。剣を抜き、誇り高い猛将を横にさせる。
「敵将華雄、劉備軍が将、徐公明が討ち取った!」
俺の声を聞いて周りから鬨の声が上がり始めるが、残りの華雄隊が死兵となって襲い掛かって来た。
身体は勝手に反応して、近づく敵を薙ぎ払い、弾き飛ばす。
それでも死力を尽くして俺だけに群がろうとしたが、周りの兵に背後から突き殺されていった。まさに地獄と呼ぶに相応しい状況だった。
兵達の華雄への忠義はそれほどまでに深く、熱いモノだったということ。
もはや賊相手の殲滅と変わらない戦いを続けていると、明の隊が敵陣を穿ち、周りを開けてくれる。
「いやー、やったね秋兄。お手柄じゃん」
軽い言葉を掛けられ、漸く気付く。お前が仕組んだんだな。華雄と俺がぶつかるように。
「そうだな。助かったよ明」
自分でも驚くほど冷たい声が漏れ出た。これが本当に俺の声か?
「……へぇ、甘いねぇ。覚悟は立派だけど、割り切らないともたないよ?」
「そうだな。俺は甘かったらしい。思い知ったよ」
俺から何かを感じ取ったのか曖昧な言葉を投げかけてくる明。
思いついたまま返すと、それを聞いてクスクスと笑い、耳元に口を近づけて囁いてきた。
「何かを守りたいならやりきりな。偽善者」
瞳を合わせてにやりと笑ってくる。
俺も合わせて笑ってみた。
「やりきるさ。俺の目的のために」
そのまま戦場が落ち着いていき、勝利の空気があたりを包む。生きている事に安堵した兵が喜び叫ぶ声が耳を打った。
歓喜の声が増えて行くのを聞いてから、まだ俺を見ている明に背を向け自軍の本陣へと脚を向ける。
未だに耳に残る華雄の怨嗟の声は俺の頭の中でずっと繰り返し反芻されていた。
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