暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
彼は一人怨嗟を受ける
[12/13]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
細かい傷をつけ続ける。
 ずっと戦場を駆け回っていた華雄と先程分断策を行うために突撃を行っただけの俺では体力の差がありすぎて一騎打ちもあっけないモノだった。
 長期戦になればなるほどこちらは有利。張遼も愛紗と星が抑えてくれているので問題は無い。
 俺にとっては華雄を投降させる事が第一であり、殺すつもりが無いからこそ時間を掛けている。桃香の成長の為にはこいつを生かして捕まえたい。
「張遼は抜けない」
「黙れ」
 何回目になるか分からないほど振られた戦斧を避け、そのまま斬りつけてまた細かい傷を一筋入れる。
「お前の兵も全部死ぬ」
「黙れ!」
 更なる反撃の一撃が俺に向かい来るが、あまりに単純すぎる。
「お前の負けだ」
「黙れぇぇぇぇ!」
 膝を抜いて躱し下段、上段の蹴りを放つと、二撃ともまともに当たり華雄は吹き飛ばされた。
 だが――驚くことにまだ膝をつかない。
「貴様に何が分かる!」
 憤怒の形相でこちらを睨み、華雄は語り始めた。
「あの方はただ一人天子様のために魔窟洛陽に行くことを決意されたのだ! 争いのない世のために! 自分が利用されるとわかっていてだ!」
 必死の、震える声で叫ぶ華雄を見ると嘘をついているようには思えなかった。やはり……こちらに正義はなかったか。いや、勝った方が正義になる。それだけのことか。
「貴様らなど賊と変わらんではないか! あんな優しい方を己が欲のために食らいつくす獣だ!」
 華雄の語りの途中に聞こえた一つの言葉に思考が落ちた。世界が壊れないためにと動く俺が――賊だと?
「劉備の理想も聞いたぞ! 偽善ではないか! 偽善でこの大陸が救えるか!」
 続けられた言葉も俺の心を押しつぶすには十分だった。抑えきれず、自分の心が抗うも、肯定している自分に嫌気がさし思わず話し始めてしまった。
「その通りだ。だが平和になるなら例え偽善でも貫き通し、大陸を救って見せる」
 自分が零した言葉も矛盾で彩られていた。俺は……俺にすら嘘をついているのか。
「ふざけるな! 貴様らの作った平和などいらない! 綺麗事の先の世など、そんなものに入るくらいなら死んだほうがマシだ! 徐晃、お前は気付いていながら劉備の元で戦っていたのか! 人殺しの偽善者め! 私の兵を、月様の幸せをよくも!」
 抑えきれない重圧がのしかかり、心が悲鳴を上げ始め、殺したものの怨嗟の声が脳髄に溢れ返った。
 その渦に呑み込まれ、俺のあらゆる感情は、一つを除いて凍りついた。たった一つ残った感情は――殺意だった。
「もう黙れ敗北者。お前に俺の何が分かる? 自分だけが正しいと思うなら、そう思ったままここで死ね」
 言葉と同時に最速の突きで華雄の胸を貫いた。
「がっ!」
 華雄は斧を落とし、膝が折れかけたが、驚くことに胸を貫いている剣を掴んで
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ