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銀河英雄伝説<軍務省中心>短編集
Frohe Weihnachten !!〜聖夜の杯〜
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質問だが……いや、その前に」
オーベルシュタインが薄く笑みながらグラスを掲げる。フェルナーも倣って掲げながら、
「何に乾杯いたしましょうか」
と、思案顔で尋ねた。ふむ、と数瞬考える間があって、類稀なる頭脳を持つ軍師が口を開く。
「卿の作戦失敗を祝して」
「え?」
意地の悪い目で睨む上官へ、思わず瞠目して問い返してしまう。
「私を早く帰そうという当初の計画は、失敗に終わったであろう?」
フェルナーは何かを言い返そうとして断念してから、肩をすくめて笑った。つられたようにオーベルシュタインも相好を崩して、互いに相手の笑顔を目に焼き付けた。このような時間が、今後も持てるという保証はない。特に彼らは軍人であり、死と隣り合わせで生きている人種であった。おそらく今この瞬間が、ひどく貴重な存在になるのだろうと、両者は明確に理解していた。
「では、この貴重な夕食にというのはいかがですか?」
フェルナーの提案に、オーベルシュタインは小さくかぶりを振った。
「それでは、まるで吾々が食い意地の張った子どものようではないか」
そうですかと肯いて、更に思案する。
「では無難に、皇帝(カイザー)ラインハルト陛下のご即位を祝して……」
「今更という感が否めぬな。祝賀の会も催された後では」
間髪入れない上官の返答に、フェルナーも肯くしかなかった。何しろローエングラム王朝発足から半年が経過しているのだから、指摘どおり今更のことである。
「いっそのこと、乾杯の文句は各自にいたしませんか?口にしてしまえば後戻りはできず、相手の言葉を否定することもできませんし」
いささか投げやりのようでもあったが、的を射た指摘であった。
「よかろう。……それでは」
再びグラスを持ち上げて、
「閣下のご健康に」
「卿の健やかなる未来に」
チンとグラスを触れ合わせて、度数の高い蒸留酒をそれぞれの喉に流し込む。ふっと息をついて、両者はまた小さく笑った。
「あれだけ食い違ったのに」
呆れたように笑うフェルナーへ、オーベルシュタインは真顔に戻って口を開く。
「そもそも『乾杯』の本来の意味は」
「健康を祝うものだから、ですよね」
その通りだと肯くオーベルシュタインの口元にも、柔らかな笑みが戻っていた。絶対零度の剃刀という異名からはかけ離れた、穏やかで凪いだ海面のような静かな笑みである。冷笑や苦笑の類ならともかく、上官の楽しげな笑みを目にすることは、今までに一度たりともなかった。少しは信頼された結果なのかと、フェルナーは自惚れだと自覚しながらも嬉しくてたまらなくなった。
「私がここへ赴任した一月半後、一足遅れで執事夫婦が犬を連れてフェザーンへ到着した。その時に、一度彼らと共にここで食事をしたのだ」
その時以来だと、オーベルシュタインは控えめに付け加えた。この言葉もフェルナ
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