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銀河英雄伝説<軍務省中心>短編集
Frohe Weihnachten !!〜聖夜の杯〜
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に上官の後へと続いた。良く磨かれた大理石の床が、コツコツと小気味良い足音を響かせる。店員に誘導されて、二人は窓の見えない奥まった席へと腰を落ち着けた。
「お気遣い感謝いたします」
コートを預けて椅子を引きながら、フェルナーは神妙な顔で頭を下げた。自分が上官を気遣っていたつもりが、却って上官に気を遣わせていたのだ。感情の薄い上官は、曖昧に微笑んでフェルナーに着座を促した。店はかなり広々としているが、テーブル数はそれほど多くなく、ゆったりと寛げる印象だった。ひとつ気になったのは、犬連れの客の多さだ。
「ここは犬用メニューを注文できるのだ」
オーベルシュタインは部下の疑問を正しく推測したようだった。フェルナーは得心がいった様子で肯くと、にやりと人の悪い笑みを浮かべた。
「閣下はこの店をご利用になったことがおありですか」
オーベルシュタインはアクの強い部下の意味ありげな笑みを一瞥すると、関心のなさそうな顔でメニューを開いた。関心がないのではなく、おそらくあえて無視を決め込んだのであろうと、フェルナーは日頃の様子から予想した。
「余計な詮索をする前に、注文を決めたらどうかな」
軍服の袖口から見え隠れする細い手首が、霜が降りたように青白くて、フェルナーはともかく体を温める方を優先することにした。想像しなかった上官との会食の場に、少々舞い上がっていたようだが、話などこれから飽きるほどできるはずだ。
「失礼しました。……しかし小官は、このような店には慣れておりませんので」
フェルナーもメニューを開いて、端正な顔をしかめた。彼らしくなく戸惑っている様子に、オーベルシュタインは思わず含み笑いをした。
「コースで良ければこれが良い。フェザーンの郷土料理が多く体も温まる。酒はヴォトカが合うが、少々強い。飲めぬようなら割ったものも注文できるが」
淡々と、けれどスマートにメニューを提案してくる上官もまた、彼らしくなく饒舌であった。フェルナーは嬉しげに上官の顔を見て微笑むと、閣下の勧めて下さったもので、と控えめな返答をした。日頃のオーベルシュタインであれば、決して部下の食べ物にまで口を挟まない。まして、食事に誘うなどということさえ皆無である。二人がともに食事を取る時といえば、フェルナーが強引に連れ出すか、休憩を見計らって押しかけて行くかのどちらかであり、上官がこうして自分をレストランへ連れて来て、メニュー選びの助言するなど、想像もし得ないことなのだ。だからこそ余計に上官の気遣いが伝わり、胸の奥が温かくなるのを感じた。
酒が決まったのを見計らってウエイターが現れ、オーベルシュタインが二人分の注文を済ませた。数分してヴォトカと前菜がテーブルに置かれると、オーベルシュタインは慣れた手つきでナプキンを胸にかけた。やはり貴族なのだなと、妙なところで感心する。
「先ほどの
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