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乱世の確率事象改変
雛は現実を知る
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る世になるなら、その礎になるんだ」
 そっと胸に引き寄せると、しゃくりあげる声が響きだした。
「不安定だろうとそれを確かなものにするしかない。力で脅かそうと、叩き伏せようとだ。話し合えるならこんな世になっちゃいないんだ。話し合いで解決できるならそれまで奪った命の関係者は絶対に救われない」
 やっぱり卑怯者だな、俺は。
「桃香の理想はそういうものだ。あいつもそのうち気付くだろう。本当はどの王も手段や過程が違うだけで同じ目標を目指しているんだと。好き好んで争う悪は本当の王になれないのだから」
 言い終わると部屋に嗚咽だけが響く。何故こんな優しい子が戦わなければいけないのか。
「よく聞け雛里」
 胸の中で小さく頷いたのを確認し、続きを紡いだ。
「ここでは王の成長を見守り我慢するしかない。王は自ら気付かなければ確固たるものにならないからな。臣下は口出しすべきじゃない。俺みたいなのの影響も受けさせたくないから極力接触を避けてきた」
 一息おいて、さらに続ける。
「出ていくか、それとも今はまだここで待つか。この戦いが始まるまでに決めておけ。民でもある兵士を自分達の理想の贄にするのかどうか」
 最低ラインは言った。これ以上は自分で考えて貰う。気付いたとしても、また理想に溺れる事もあるのだから。
「秋斗さんは、桃香様を、信じているんですね」
 ゆっくりと言葉を紡ぐ雛里に、
「ああ。あいつの優しさは本物だろうから」
 俺の答えを言う。そう、ただ一途なだけ。人を純粋な優しさで惹きつけ、労り、暖かく励ます心はこの乱世では稀な存在だ。誰かの為にと乱世に立ち上がるなど、並大抵の人間では出来やしない。
「私も信じます。きっとあの方は気付きますから」
 もう大丈夫だな。
「そうか。……ごめんな雛里。それまでは辛いだろうが俺と共に矛盾を背負ってくれ」
「いいんです。秋斗さんと一緒なら……大丈夫ですから」
 俺は……最低な人間だ。本当は他の道に行く方が幸せなはずなのにひきずりこんでしまった。


 しばらく頭を撫でていたら眠ってしまった雛里を部屋に送り、俺は自室で夜の闇にさらに自問自答を繰り返すことにした。


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