覇王と黒麒麟
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かけられない。その理想を貫き、怨まれながらも奪い取った平穏を先の者たちに託すことの出来る人間か分かるまでは」
仁徳を説きながらも人の命を奪う王。先に生きていく者のための優しい世界か。
完成形はそれ。矛盾の上に遠い先を見る王。今の時代の人間に怨まれようとも先の未来を見据える王。後世がずっと平和ならばその始まりの王。
だが……正直言って矛盾をしている時点で破綻している。
矛盾した王など、誰が仰ごうと言うのか。信頼も信用もなく、いつかはその矛先は自分だと怯えることにならないか。笑顔だが拳を振り上げながら行われる交渉。そんなモノは不可能だ。
その人物が乱世を鎮めたとしても、ひどく脆い治世になるだろう。
矛盾するくらいなら最初から仁徳など説くべきではないのだ。
規律と理で線を引き、明確な形で示すべきだ。それがどうしたと居直れるくらいでないと平穏など続かない。
私は負けるわけにはいかない。そのような王にだけは。だが、だからこそ好敵手になり得る。私の覇道の正しさを確実に証明できる敵対者として相応しい。
しかし……この男は大馬鹿者だ。その矛盾の危うさに気付いていない。いや、今は見れないのか。この男は死者への想いに囚われ過ぎている。今日ここに来ていたのがいい証拠だ。
なんてもったいない。軍師ほどではないが優秀な頭脳、春蘭に匹敵する武力、王に物怖じしない胆力、先を見据えて王の成長を待つ忍耐。これほどの才がありながら、間違っている王の所にいるなど許されることではない。
この男の忠誠を得ることが出来たら王としてどれほど幸せなのか、それすら劉備は気付いていないというのに。死者に礼を尽くし心に刻みつけるこの男は、余程のことがない限り裏切りはない。
今、心酔はしていないが影響されはじめている。このままでは時間の問題かもしれない。ならば――
「徐晃、あなたが剣を返してもらう時はいつ?」
「……桃香が理想を一度でも迷ったならば。俺は今まで殺したものに唾することになるだろうな」
そう、劉備を裏切るなら、理想のために死んだ兵の想いをも裏切ることになる。無駄死にさせた、と。だが劉備の迷いはそれほどまでに許せない事。
その時この男は耐えられるのか? ただ一人矛盾を背負って、ぬるま湯ではなく氷の川に沈んでいるこの男は。
「私の所へ来なさい。そうしなければあなたはこの先確実に壊れる。あなたも分かっているのでしょう?」
理解していなければ私とこのような話などするはずもない。先ほどの表情の意味も、心を砕いているからこそなってしまうモノだ。
私の元でなら正しく扱うことができる。この男の本当のあり方は、見てきた限りでは私に近いのだから。
「それはできません。世界を変えるために賭けていますから。ありがたい申し出ですが」
途端に剽軽ないつも
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