第11話:夏の残像
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いて、赤い頬で、渇いていない茶色がかった髪で。
「す、すまん。」
「う、ううん。別にあたしは…」
じゃあ俺行くわ、ダウンして早くスタンドに戻れよ、と逃げるように言って俺は招集会場に急ぎ足で向かった。何か凄い罪深いことをしているような、恥ずかしいような気持ちを抱いていたことは間違いない。
「遅いぞっ拓ゥ!」
プールサイドの召集会場に着いた時に、先に待機していた主将に叱られた。とはいうものの、声に怒気は篭っておらず、笑顔であった。召集会場付近には、予選2位の主将と予選7位の俺を含めた8人が各々ベンチに座っていた。
「すみません、遅れました!」
「何かあったのか?」
「まあ、少し」
幼馴染を何故か抱きしめていました、なんて言える筈がないのでお茶を濁した表現を使った。主将は、何か聞きたそうな様子ではあったが「そうか」と一言呟いてそれ以上追及しなかった。正直、ありがたかった。
「1コース、輝日南中学、遠野拓くん」と召集担当の役員が俺の名前を呼び上げたので、俺は返事をした。以下、2コース、3コース……と続いていく。全員の招集が確認され、キャップとゴーグルの具合を確認している俺に対して主将が声を掛けた。
「拓、ひょっとしたらお前と一緒に泳げるのもこれが最後かもしれないな。出来るなら全中の標準記録を切って引退を先延ばしにして、お前達をシゴキ上げたいものだ」
「出来ますよ、私だって先輩に負ける気はありませんから」
「言うようになったな、コイツめ」
主将の最後という言葉に、俺はその時少し感傷的になったな。前世で俺も中学・高校・大学と自分が最後のレースに挑んだし敬愛する先輩を何人も見送ってきた、その光景が頭を過ぎった。この精神的には俺よりも大分年下なのに敬愛した先輩も同じように去っていくことをイメージして離れなくなったのだ。
「拓、そろそろレースだ。行くぞ」
「えっ、あ、はい」
おいおい大丈夫かよ、とカッカッカと笑って俺の背中をバンと叩く。痛い、相変わらずの遠慮の無さだなと思った。…俺にとっても、今シーズン最後のレースが始まる。
「拓、一つだけ忠告だ」
「…?何です?」
「優しさは確かに大切だ、でも優しすぎるというのも罪なことなんだぞ」
何のことか分からなかった。だが、先輩は真面目な顔で俺にそう言ったので俺は肯定の意を伝えた。入場の音楽が鳴る、さあレースだ――…
………
主将は決勝を4着でゴールしたが、標準タイムを切ることが出来なかった。俺も自身の壁であった57秒を切り、6着でゴールしたものの最後まで主将に勝つことが出来なかった。レースを終
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