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皇太子殿下はご機嫌ななめ
第41話 「変わりゆく人々」
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わしい貴族。
 本当にそうなったとき、男爵は誰もが認める帝国貴族と呼ばれる事でしょう。

 ■総旗艦ヴィルヘルミナ リッテンハイム候爵■

「Komm,susser Tod」

 宰相閣下が書類を見ながら、なにやら呟かれている。
 それとも歌っておられるのか?
 それにしても、甘き死よ、来たれとは、ずいぶんやさぐれておられるようだ。

「ちょーむかつくーって感じー」

 遠路遥々イゼルローンまで来たというのに、書類からは逃げられぬ定め。
 やさぐれてしまうのも分からなくもない。
 しかし宰相閣下というよりも、皇太子殿下は不思議なお方だ。
 高貴さと同時に野趣を持っておられる。
 本質的には自堕落な生活を好む。
 成りたいが、成ってはいけない男の見本というべきだな。
 もし真似るとしたら、嵐に立ち向かう強さ。一歩、前に踏み込む力。それだろう。
 それがこのお方を形成する核だ。
 何もせずに皮肉げに笑う男ではない。
 倒れるときは前のめりに倒れる。不様だろうが、情けなかろうが、前に進むお方だ。
 私に息子がいれば、やはりこのお方のようになって欲しいと思う。
 そうならば安心して、リッテンハイム侯爵家を任せられる。ブラウンシュヴァイク公爵も同じだろう。どこかにこのような男がいないものか?
 いればザビーネの夫として、喜んで迎えるのだがな。

 ■宰相府 ジークフリード・キルヒアイス■

「へいっ!」

 宰相府に戻っていた私達を、アンネローゼ様の陽気な声が出迎えた。
 その途端、床にへたりこんでしまうラインハルト様。
 私も足が崩れ落ちてしまいそうだ。
 この頃、アンネローゼ様のはっちゃけぶりが、さらに増してきたような気がする。
 それにしても真っ赤なドレスを纏い、カスタネットを叩く姿にあごが外れそうになった。
 やはりあれか、カルメンを見た影響かっ?

「先ほどまでの爽やかな気持ちが、一気に汚濁に塗れてしまった気分だ」
「ええ、解ります」

 私も同じ気持ちですよ、ラインハルト様。
 自ら、新しい帝国にふさわしい貴族になろうと、決意された人物がいる。
 はっきりとした形もわからず、それでもなお、手探りで、あるべき姿を探し、前に進もうとする高潔な意志。
 その清冽な意志に触れ、すがすがしい気持ちで帰ってきたというのに……。
 台無しです。
 なんてこったい。

「何をへたり込んでいるのですか、ラインハルト?」
「腐った貴腐人なんか、きらいだー」
「腐ったとは失礼な。男の娘のくせに」
「誰のせいですかっ!!」

 アンネローゼ様とラインハルト様がにらみ合っている。

「本当の自分を曝け出しただけでしょう?」
「それこそ失礼な物言いです!」
「自分を偽らな
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