第二十七話 〜夜に舞う喋 中編【暁 Ver】
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のデータが破損していました。その所為でボブの人格に何らかの影響が出ていると思われます」
やっと納得した。あの時の違和感。あの時のボブは既に──── 壊れていたんだ。
『ティアナ。私の役目は……いや、私の存在意義はアスナを守ることだ。それはアスナの肉体だけではなく、心も含まれる。その私が──── アスナが殺人を犯すのを容認するわけがない』
「それは、わかってるわ。あたしを含めて六課の人間は、アスナを疑っている者なんかいない」
『理解しているのならいい。ならば何故、アスナは』
「そこなのよ。あたしは最初、誰かを庇ってるんだと思ったのね。そしてその誰かは……」
そう言ってあたしは、お兄さんへ胡乱な視線を送る。見れば、ボブもお兄さんを見つめている……多分、だけど。お兄さんはあたし達の視線に気づくと、狼狽し始めた……怪しい。
「ちょ、ちょっと待ってください。私は今も昔も人を殺めたことなんてありませんよ? ……え、何で黙るんですか」
お兄さんの慌てぶりが可笑しくてもう少し見ていたい気もしたが、今はそれどころじゃない。優先順位を間違えてはいけない。
「お兄さんの犯罪歴は後で詳しく追求するとして……お兄さんは一刻も早く、アスナを探して保護してください。……出来ないとは言わせませんよ? あの時、あたしを探し出した能力……スバルから聞いています」
もっとも。アスナがこんな状況で、お兄さんに『やらない』という選択肢はないのだけれど。お兄さんは深々とため息をつくと、表情を苦笑いへと染める。
「わかりました。兎にも角にもアスナ本人から、事情を聞かなければいけませんしね。お任せください。……少々お時間を頂きます。あれは──── それほど万能ではありませんので」
「お願いします」
あたしは通信を切ると、着替えもそこそこに部屋を飛び出した。
夜──── 多くの生き物達にとっては、やすらぎと眠りの時間。この季節、休むことを知らないかのような、あの太陽でさえ……眠りに就く。だが、彼らは例外のようだった。ふわりふわり。ひらりひらり。風と遊ぶ花びらのように、それは舞う。羽を一打ちするたびに舞う鱗粉が、外灯に照らされ妖しく光る。
男はそれを見ていた──── 最早、物言わぬオブジェと成り果てたそれを見ていた。外灯にもたれかかるようにしていたそれは。ごとりと音を立てながら、冷たいアスファルトへと身を沈める。何も映さない瞳は虚しく空を見上げ、何も語らない口からは──── 二対の目が覗いていた。男はそれを見届けると、夜に溶け込んでしまうかのようなコートの裾を翻し、その場を立ち去った。
ふわりふわり。ひらりひらり。それの
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