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剣の丘に花は咲く 
第二章 風のアルビオン
第五話 ウェールズ・テューダー
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の力を使っていなかった……?」


 ワルドが信じられない、信じたくない考えを抱いた瞬間、凄まじいほどの悪寒と恐怖を感じ、突然立ち上がると、船の上から礼拝堂を見下ろした。


 ―――見えているぞ―――


「ヒッ!?」

 その時だった、士郎の声が聞こえたのは。
 船から礼拝堂まで優に三リーグ以上あるにもかかわらず、ワルドにはまるで、それが耳元で囁かれたような気がした。
 感じる危機に命じられるまま、ワルドは反射的に船から飛び降りた。





  
 士郎は感情の見えない顔でその歪な矢を弓につがえると、見えない何かを見詰めるように目を細め、何事か呟くと矢を放った。




 ――これは少しばかりきついぞ――
 


偽・螺旋剣(カラドボルグU)






「……えっ……何コレ……?」

 ルイズは感情の抜けた声でポツリと漏らす。
 ルイズの目の前には信じられない光景が広がっていた。
 
 ルイズの視線の先には、礼拝堂の天井を士郎がデルフリンガーで破壊したことから、“レコン・キスタ”の艦隊が並ぶ空が見えていたはずだった。
 しかし、その視線の先には何もなかった(・・・・・)全てなくなっていた(・・・・・・・・・)、ルイズの見える範囲の全てが消えていた。

 

 士郎が矢を放った瞬間、まず礼拝堂の天井が消えた、天井が消えたと思った次の瞬間にはレコン・キスタの艦隊が吹き飛ばされた。
 まるで強風に吹き飛ばされる枯れ葉のように、軽々と吹き飛ぶ艦隊の様子に、ルイズはただただ呆然と恐怖に震えていた。
 
 こ……怖い……シロウ……あなたは一体……なに……?

「シロウ……ぁ……?」
 
 しかし、空を見上げる士郎の瞳に何かを感じたルイズは、血と埃、瓦礫で汚れている床を震える体を無理やり動かしてでも、士郎に近づいていく。

「……シ……ロウ」

 何故かは分からない……ただ、自身が命ずるままに士郎に歩み寄る。
 信じられない力を見せた士郎に恐怖を感じるが、それを超える使命感にも似た予感に突き動かされたルイズは、士郎にゆっくりとだが、確実に近づいていく。

 何……で……

「ぁ……」

 ああ……分かった……

 何でこんなに、胸が痛むのか……

 何でシロウの、傍にいたいのか……

 何で、こんなに、悲しい、のか……


「……ルイズ」
「シロウ」


 士郎がルイズを見る。
 その瞳は……

「シロウ……泣かないで」

 悲哀に満ちていた。

「……泣いて、ないさ」
「……ぅん……そうだね」

 微かな笑みを浮かべる士郎。

 すると、
 
「馬鹿だね、あんた……」

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